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番外編08.舞い込んだ厄介事 その3

◇<ユイ>

 気が付けば何故か私はイリス様に抱き締められていた。


「イ、イリス様!?」

《なんです? ユイ》

「どうして。…いえ、あの私女神様に親戚なんていませんよ?」

《何言ってるんです? ユイは私が転生させたじゃないですか》

「そうですけどそれが関係あるんですか?」

《ええ。転生させる際に私の加護を与えたのでユイと私は血縁みたいなものなのです》


 それはようするに神様的には血を分けた姉妹みたいな感じなんだろうか。

 或いはカトリック関係の女子校で稀にみる姉妹制度の姉と妹みたいな。

 考えてる最中にイリス様は私の頭を自分の胸に押し付け撫でつつ微笑んでいる。

 良い匂いがする。今回もイリス様は魔素の塊(エーテル体)だよね。なのにどうして匂いまで。ほんと女神様って何から何まで規格外。


 ふと見ると後ろで唖然とした顔のモージス様。

 ぱくぱく口を開いては閉じてる。気持ちは分かるよ。私もどうしてこうなってる? って感じだもん。


「イ…。イリス姉様。今日はどうして?」


 思い切って恐々ながら姉様と呼んでみた。

 イリス様の手の動きが止まる。私を真顔で見降ろして固まる。

 やっちゃった? いくらイリス様が妹と呼んでるからって本気にして女神様を姉様なんて私、頭おかしい奴だよね。


「あ、あの…」

《もう一回》

「はい?」

《ユイ、もう一回さっきの呼び方で呼んでもらえますか?》

「イリス姉様」

《はい! 姉様ですよ》


 イリス…姉様の動きが再開。

 今度は私の頭を両腕で抱き締めて自分の胸に押し付け。

 これは天然でやってるんだろう。柔らかい…。イリス姉様、幸せで、とってもとっても苦しいです。息ができてません。


「むっ、むぐぐ」

「ごほんっ。イリス殿、御使い殿が死にかけているように見えるのだが」

《は! すみません。ユイ。大丈夫ですか?》


 ハァハァ…。神界のイリス様の本体がちらっと見えた気がした。

 モージス様ナイスです。おかげで助かりました。


「はぁ…。この体こういうのでも死にかけるなんて。忠実すぎないかな」


 ご存じの通り私の体は魔力人形(マナマータ)

 イリス姉様が私の独り言に反応した。


《それは私が作ったものだけど、忠実じゃない方が良かった?》


 言われて少し考えてみる。

 例えば窒息させても苦しみもしないし、刺されても血も出ない私。

 自分は人間じゃない。人形だって強く意識してしまうことだろう。

 それは嫌だ。忠実で良かった。


「ううん。これで良かった。ありがとう、イリス姉様」

《ユイ、可愛い》


 またイリス姉様が私を抱え込む。

 だからそれ息ができなくなるんですってば!!

 むぐぐくぐぐ。姉様、わざとじゃない…ですよね?



 また死にかけた私。

 数分後。現在馬車の椅子に座ったイリス姉様の膝の上に頭を乗せて寝かされている。


《ごめんなさい。ユイ》


 落ち込んでる姉様。女神様ってこと忘れそう。


「いえ、大丈…。ううん、大丈夫だよ」

《ユイって優しいね。妹にして良かった》

「しみじみ言われると照れるよ。ところで姉様、今日は私を愛でに来たの?」

《それもあるけどユイたちに伝えることがあって》

「伝えること?」

《うん。ユイたちは勇者の元に向かってるんでしょう?》

「そうだけど?」

《気を付けて。彼らを転移させたのはズゥードデン聖国の元教皇ヨーゼダン・コンラーディンだよ》

「「なっ!!」」


 イリス姉様の言葉で私たちの間に動揺が広がった。



 馬車はそれから一時間程でノルドラド魔族国に入国した。

 そのまま勇者を探すかそれとも改めて翌日からにするか検討した結果翌日からということになって本日はノルドラド魔族国の出入り門からほど近い場所にある宿屋にてお泊り。

 木造のなかなか風情のある宿屋。中に入ると店番らしき魔族の女の子が私たちを出迎えてくれる。

 琥珀色の瞳、オレンジ色のショートボブ、その頭には山羊の角のような巻き角が生えている。歳は十歳くらい? 何処かあどけなくて可愛い。


「ままままっ、魔王様と女神様と御使い様とそのご一行様。どどどどうしよう」


 私たちを見た途端にこれ。顔色は青白く体は震えて今にも倒れてしまいそう。

 そんなに緊張しなくてもいいのに。だって私。


「そんなに緊張しなくてもいいよ。私、何処にでもいる極々普通の女の子だよ」

「嘘です!!」


 大声を出したことによるものか、女の子の緊張が解けて血色が少し戻った。

 よしよし、成功。女の子は青白い顔してるより血色が良い方が断然可愛いよ。


「うん、緊張解けたみたいだね。良かった」

「あ…、あの…」

 

 私は女の子の頭を撫でる。

 顔がちょっと紅いけど気持ち良さそう。可愛いなぁ。ほんと。


「名前教えてくれる?」

「は、はい。えっとエリーです」

「そう。エリーちゃん、部屋は空いてるかな?」

「はい。お部屋は四部屋あれば足りますか?」

「うん。それで充分。じゃあ一泊お世話になるね」

「は、はい。料金は無料で結構です」

「それはダメ。私たちはお金を払ってサービスを受けるんだから、ちゃんと受け取らないとダメだよ」

「はい、ごめんなさい。えっと十二名様で一泊銀貨三十六枚になります」

「はい。了解です」


 収納魔法(アイテムボックス)から財布を取り出そうとするとモージス様がそれを制して私たちの分まで払ってくれた。


「良いんですか?」

「うむ。構わぬよ。依頼したのはこちらだからの。むしろ払わせてくれなければ困ってしまう」

「ではお世話になります」

「うむ」


 エリーちゃんから鍵を受け取ってそれぞれ部屋へ。

 一室にモージス様と執事さん。

 一室にモージス様の護衛の方三名。

 一室に私とイリス姉様、リーシャ、シルアの四名。

 一室にアーシアちゃんとミケちゃんとメイドさんの三名。

 合計十二名。


 備え付けのベットは二人で寝る専用のよう。

 お風呂は宿泊者共用の大浴場があって食事は夜と朝提供される。


「なかなかいい宿だね」

「そうね」


 私が言うとリーシャが同意。

 それからすぐに私の傍に来て私の腕を彼女が掴む。


「ユイは私と一緒のベットね」

「ん、うん」


 この時私は深く考えずに返事をした。

 だって戦争が起こるなんて考えもしなかったから。


《ダメですよ。ユイは私と一緒です》

「例えイリス様でもユイは譲れません!!」

《今夜くらい私に譲りなさい》

「絶対ダメです!!」


 リーシャとイリス姉様が私を巡って争い。

 この争いは隣の部屋のアーシアちゃんが「煩い」と怒鳴り込んで来るまで続いたのだった。

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