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番外編07.舞い込んだ厄介事 その2

◇<ユイ>

 翌日モージス様がノルドラドからユーリス神聖国まで乗ってきた機械馬(ゴーレムホース)が引く馬車に私とモージス様が乗り、私たち専用の馬車に私の家族たちがそれぞれ乗って移動開始。

 通常の馬車よりも数倍速いその馬車の窓からナナセの町の流れゆく景色を見ていると自然と笑みが零れる。

 全体的には地球イタリアのフェレンツェを思わせる外観。それが城塞都市になった感じ。

 けれど場所によって近頃人が増えてきたために十階建てのマンションが建ってたり、江戸時代辺りを思わせるニホン通りがあったりとちぐはぐなところもある。

 この町は今も進化し続けてる。だから必ず何処かで工事の音がする。

 エルフ、獣人、ドワーフ、竜人、魔族、精霊、妖精、人間等ここに住んでいるのは多種多様な種族。

 住民の顔は明るく、それはつまりこの町に住んでいて幸福であるという証。

 見ていてこちらも幸せになる。彼ら・彼女らが楽しそうなのがこの上なく嬉しい。


「御使い殿は」


 ずっと外を眺めていたら対面に座っているモージス様に声を掛けられた。

 いけないいけない。この態度は客人に対して失礼だったかな。

 姿勢を正し、モージス様を見ると彼は微笑みを浮かべてる?


「すみません。つい外を眺めてしまっていました」

「いや。構いませんよ。それより御使い殿は国の皆が好きなんですな。この窓からはナナセの町しか見えませんが、御使い殿の目には国が映っているように見える」


 国か。私は窓に映る景色しか見てなかったけどね。だからそれは買いかぶりすぎ。


「買いかぶりすぎですよ。でもこの国の皆のことは確かに好きです」

「そうか。良き指導者をもってユーリス神聖国の国民は幸せですな」

「こんなものじゃない。もっと綺麗な景色を見せてあげたいです。幸せだと感じて欲しいです。私は強欲なので」


 再び視線を窓の外へ。向けるとモージス様は意表を突かれたかのように少しの間沈黙し、そして笑い出した。


「はっははは。我も魔王の座を継承者の誰かに引き渡してこの国に住みたくなってきたわい。御使い殿、隠居後は越してきても構わんかな?」

「勿論構いせんけど、でもまだまだモージス様が隠居されるのは早いのでは?」

「そうでもない。我がいなくても国は回るところまで来ておる。後は引き継ぎが終われば晴れてお役御免。この騒ぎが終わったら本格的に引き継ぎに入るかのぉ」

「そうなんですか。では二代目の方ともユーリス神聖国と同盟を結んでもらって良い関係を築いていけるようにしたいですね」

「それは問題ない。我が引き継ぎの際に言っておこう。はぁ、やれやれのんびり隠居が待ち遠しいの」

「あははっ」


 私は笑いながらふとあることを思いついたのでモージス様に提案してみた。


「あのモージス様」

「ふむ? なんですかな御使い殿」

「隠居後は私の傍で国の副代表として立っていただけませんか? 後、私は権力者との付き合い方が致命的になってないのでシルアと共にご指導いただけると嬉しいです。どうでしょうか?」


 我ながらなかなかいい提案だと思う。

 モージス様に傍にいてもらえたら心強い。鬼に金棒を持った気分になれる。

 それに権力者の扱いなんて慣れたものなモージス様にマナーなど教えてもらえたら私も今より少しは威厳を持つことができるようになると思う。シルアの心労もこれで軽減される。

 うんうん、良いことずくめ。…だよね? 後はモージス様の気持ち次第だけど。


 モージス様の顔色を伺う。彼は少し考えた後、疲れた表情を見せた。


「御使い殿はこの老体にまだ働けと言うのですか」

「うっ。それは」


 しまった。自分たちのことしか考えてなかった。

 ゆっくりしたいって言ってる人にこんな話したらダメだよね。

 残念だけど取り消すしかないかな…。


「すみません。この話は…」

「喜んでお受けしましょう」

「…なかったことに。…………へっ?」


 今なんて?


「ほっほっ、女神の御使い殿の傍で働ける。これ以上の名誉なことがありましょうか。是非お願いしたい。我などで良ければ御使い殿の好きに使ってくだされ」


 モージス様がそう言って頭を下げる。

 私はそのモージス様に頭を上げて欲しいと伝え、言われた通りに頭を上げてくれたモージス様に求めるのは握手。


「よろしくお願いします」

「こちらこそですな」


 がっちりと繋がれた手。

 私は、私たちは最高の人材を得た。



 それからは馬車の中で特に変わったことなどなく、のんびりと雑談など交わしながらノルドラド魔族国への旅路を行く。

 ユーリス神聖国はUの字型の国。その一番下が首都ナナセの町。そのナナセの町における一番北側の位置に馬車が差し掛かる。ここはナナセの町とノルドラドを結ぶ地下道があるところ。ちなみにその地下道の少し先にはユグドラシルダンジョンへの入り口である大岩が見える。

 地下道の番人である警備隊に挨拶をしていよいよ地下道へ。

 ここは広さとしては馬車と馬車が問題なくすれ違える二車線な広さ。

 ユーリス神聖国を基準にすると右側がノルドラド行きで左側がユーリス神聖国戻りとなる。

 穴を掘りながらコンクリート…ではなくオリハルコンで枠や吹き付けをして固めて表面のそこに青光り苔と呼ばれる苔を張り付けてある。そのため地下道内は淡い青色の光で照らされているので明るい。人工物だけど神秘的だと思う。初めて通る人はその美しさに目を奪われるんじゃないかな。かくいう私も完成した時は感動した。言うなればファンタジーゲームの洞窟って言う感じ。


「ここはいつ来ても感動するなぁ」

「ですな。人工物でありながら自然界の岩も上手く利用していて共存しているのが素晴らしい。それに中央部に岩を掘られて作られている御使い殿の石像も」

「それはいらないです!!」


 そうなのだ。ノルドラドとユーリス神聖国のちょうど真ん中に休憩所が設けられているのだけど、そこに私とイリス様の石像が彫られているのだ。

 私そんなの聞いてなかった。工事関係者に聞くとなんでも信者がこの地下道内でもイリス様と私に祈りを捧げることができるように作ったとのこと。

 イリス様にお祈りするのは分かる。私も食事の前とかに祈ってるし。

「イリス様。今日も私たちに生きる糧をお与えくださりありがとうございます。いただきます」

 って感じで。

 前世では神様なんて都合の良い時しか頼らなかったし、祈らなかった。

 それが今ではこの在り様。人って環境で変わるものだね。


「私に祈っても意味なんてないんだけどなぁ。願いを聞き入れて何かしてあげるとかないし」

「しかし御使い殿はイリス殿の義理の妹なのでしょう? では祈られてもしかたあるまいと思いますな」

「それはイリス様が勝手に設定した…」


 その時馬車の客室中央に突然現れる人の大きさ程の光の球体。


「何!??」

「なんだ!!??」


 片手をその光の輝きから目を守るように掲げて驚く私たちの前でその球体は少しずつ人の形を取っていく。

 完全に光が収まった後にそこに具現化したのはイリス様!!?


《設定ではありません、ユイ。貴女は間違いなく私の義理の妹です》


 えっ。えっ、えええええ。

 気が付けば何故か私はイリス様に抱き締められていた。

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