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番外編05.魔獣ハンターユナ その3

◇<ユイ>

風刃(ウィンドカッター)


 今現在闇夜の森の中キマイラベアーっていう名前の魔獣と対決中。

 体は熊だけど顔は獅子で尻尾は蛇っていうなかなかにインパクトの強い魔獣。

 私の体の動きに合わせてハンターペンダントが揺れる。

 ペンダントトップに輝くはルビー。

 私はあれから主に討伐で功績を上げ、早くもそこまで上り詰めた。

 これまでハンターランク・ルビーに到達した者の中で最年少で最速の昇格。

 それを称えられ、それと私の身のこなしが風のように素早いことから同業のハンターたちから神速の双剣使いって二つ名がつけられてそう呼ばれるようになった。

 私の戦闘スタイルは本当は魔法型なんだけど、御使いユイとの差別化を図るためユナとして活動する時は双剣を主体にして魔法は補助として使うことにしたのだ。


 なるべく動きを止めないようにして走り回りキマイラベアーを撹乱する。

 狙い通りキマイラベアーは私に狙いを定められず苛ついているのが感覚で分かる。


「ほら。ここだよ」


 相手の懐に潜り込んで逆手に持った右手の剣で斜め上に袈裟斬り。腹部に一太刀。

 私の動きが止まったことで右手の爪で私の頭を突き刺そうと突きを繰り出して来たキマイラベアーのその攻撃を首を少し横に傾けることで回避する。

 怒り狂うキマイラベアー。私はその様子にほんの少し唇を歪める。

 自分の中にこんな残虐性が眠ってることなんて前世では知らなかった。

 でもアイリスに来て知った。初めて魔獣の命を奪った時、思ったより何も感じなかった。

 案外普通にしていられたんだ。


"ザンッ"


 隙だらけとなったキマイラベアーの首に先程その位置まで持っていっていた剣を横に引いて斬る。

 左手を動かしそのまま追撃しようとすると尻尾の蛇が私を噛みつこうと動いたのが見えたためキマイラベアーの体を強く蹴って自身の体を宙に浮かせて回避した。

 宙で後ろに一回転して地面に着地。仕切り直し。

 剣を手に再び走る。


「グォォォォォ」


 キマイラベアーもただやられてばかりじゃない。

 尻尾の蛇から吐き出される炎。

 しかしそれも私には見えている。

 その尻尾に向けて剣技と魔法を放つ。


「ダブルスラッシュ、風刃(ウィンドカッター)風刃(ウィンドカッター)風刃(ウィンドカッター)


 戦闘開幕直後に放っておいた風刃(ウィンドカッター)はこの瞬間のため。

 傷つけていた位置に寸分違わず剣技と魔法を三連。

 さすがにこれにはキマイラベアーも耐えられず尻尾が斬れ落ちる。


「グォォォォォォォォォォワァァァァァァァァァァッ」


 闇夜に轟く悲鳴。

 私はそれを好機と見て一気に走り詰め寄る。

 キマイラベアーの巨体が目の前。

 これで詰みと思ったけど、キマイラベアーは尚もしつこく反撃してきた。


 左手を後ろに大きく振りかぶっての降り下ろし。

 冷静に対処。一歩後ろに下がってその攻撃を回避。

 私の前髪が数本風に舞う。キマイラベアーと目が合ったのでニヤリと笑う。

 今度はこちらからの攻撃。


 剣に風の魔法を付与。その剣でキマイラベアーの左手を切断。首の動脈を同時に斬る。

 それでもう放っておいても死ぬだろう。けどせめてもの慈悲。トドメを刺す。


「さよなら。炎の円柱(フレイムピラー)


 キマイラベアーの体を包む灼熱の炎。

 その炎が消えた後、そこにあるのはキマイラベアーの額の宝玉と魔石だけだった。




 今回の討伐成功により私はハンターランク・ダイヤモンドとなった。

 このルリエの町のギルドでは初の快挙らしい。

 ギルドマスターは漢泣きしてた。

 申し訳ないけど、山賊と言われても納得してしまいそうな武将髭を生やした筋肉隆々の良い年をしたおじさんが子供みたいに声を上げて泣く姿には少々引いてしまった。私のために泣いてくれたのにごめんなさい。

 そして私はこれまで黙っていた事実を私の専属として私を陰からずっと支えてくれたナタリーさんに真実を打ち明けることにした。

 ハンターギルドでダイヤモンドランク昇格記念パーティを開いてもらった後、ナタリーさんに声を掛けて一緒にルリエの町の夜道を行く。

 人通りの少ない方へ少ない方へ。

 最初は理由も告げず呼ばれたことで、ただ困惑しながら私に着いて歩いてたナタリーさんだけど、どんどんひと気が無くなっていく様子に顔色が少しずつ悪くなっていっている。

 

「あ、あの…。ユナさん? どちらに行くのでしょうか?」

「ごめんなさい。でも別に取って食べるなんてことはしないので私を信じて着いて来てください」

「は、はぁ…」


 そう言われると何も言えなくなったのだろう。

 二人黙ってただ歩く。町の喧騒が遠くに聞こえる。代わりに近くに聞こえるのは私たちの足音だけ。

 この雰囲気結構好きだ。

 空を見上げると地球で暮らしていた頃とは比べ物にならない程の美しい星々。

 アイリスという世界は昼間はエメラルドグリーンの空なのに夜は地球と同じ黒。だからかな?

 私が夜が好きなのは。


 小さく微笑むとそれに気づいたナタリーさんが私を見る。


「いい夜ですね」

「そうですね」

「あ! もう少しで着きますから」

「はい。でもこっちの方向って…」


 うん。迷いの森とエストリア共和国の境目。

 そこを守る門番さんたちとはもうすっかり顔馴染みなので顔パス。

 それに今回はこの人たちの上司に当たる人に予め手回しをしておいた。

 

「お話は伺っています」


 槍を手に持ち門を開いてくれ、それから左右に立って門番さんたちは私たちを見送ってくれる。


「お疲れ様です」

「お、お疲れ様です…」


 おっかなびっくりなナタリーさん。ちょっと可愛い。


「あ、あの…。ユナさん?」

「着きましたよ」

「えっ!!?」


 それからも少し歩いて五分程で目的地到着。

 そこに待っていてくれたのはクラウスさんとエンシャントダークドラゴンのクロ。


「クラウス様。どうして? それにド…ドラゴン!?」


 自分の目の前に突然国家元首とドラゴンが現れたらそりゃあびっくりするだろう。

 私はナタリーさんから少し離れ、そこで変化の魔法を解除する。


「お約束通りに。御使い様」

〘小さき者よ。すぐに参るか?〙

 

「御使い様!? ユナさ…。え!??」


 クラウスさんとクロの言葉でこっちを見て固まるナタリーさん。

 何が何だか分からないといった様子。

 彼女にちゃんと説明してあげたいけど、その前に私はクラウスさんとクロに声を掛ける。


「クラウスさん、クロ。急なお願いを聞いてくれてありがとう」

「いいえ。俺は御使い様の騎士ですから。それにこれくらいのこと全然平気ですよ」

〘うむ。妾も問題はない。いつでも声を掛けるがいい〙

「ありがとう」


 さて…。


「ナタリーさん」

「は、はひっ!」

「今まで隠してごめんなさい。ユナは実は私です。本当はもう少し早くに打ち明けるつもりだったのだけど、サファイヤになったら、ルビーになったら。…なんて思ってるうちに時が経ってしまって」

「い、いえ。そんな。だ、だいひょうぶ…でふ」

「そんなに緊張しなくても。私、極々普通の何処にでもいる女の子だよ? このセリフ久しぶり」

「嘘です!!!!!!!!」

「えええぇぇぇ!!」


「ああ…。やっぱり言いますよね」

〘うむ。そうじゃな〙


「皆酷くない!?」

「あ! 私、すみません。御使い様」

「あ~。ううん、気にしなくていいよ。それよりもう少し気楽に呼んで欲しいかな。ユイさんくらいで。なんなら呼び捨てでもいいよ」

「そ、そそそそそそんな。御使い様を呼び捨てなんてできません!」

「じゃあユイさんで」

「で、ですが」

「ねっ!?」

「は、はひ」

「うんうん。じゃあナタリーさん、ちょっと夜の散歩しようか」

「はひっ! …えっ!」


 クロがおもむろにナタリーさんを銜えて背に放る。

 それを見届けて私たちは跳躍。クロの背に。


「御使い様!?」

「じゃなくてユイさん、ね」

「は、はひ。ユイさん、これは何を?」

「だから夜の散歩」

「へあっ!?」


 クラウスさんがクロの首に跨って操竜。

 

「では行きます」

〘小さき者たちよ。しっかり捕まっておくのじゃぞ〙


 それを受けてクロが翼を羽ばたかせて空へ。


「ひあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「大丈夫。魔法で皆のことは薄い膜で包んでるから。風の抵抗も受けないし、落ちないよ」

「ひっ…。あ、本当ですね」

「ねっ? ところでナタリーさん」

「はい」

「私と組んでギルドでの待遇良くなった?」

「は、はい! おかげ様でハンターの皆さんも私のところに来てくださるようになりましたし、ギルドマスターの覚えも良くなって給金が上がりました。ユイさんが後悔しないって言ってくださた。その通りになりました」

「そう。それは良かった。それでいじめも無くなったんだよね?」

「はい。先輩はユイさん…。ユナさんのランクが上がるごとにどんどん肩身が狭くなっていって今は受付業務じゃなく事務業務に追いやられて。なので嫌味を言われることはなくなりました」

「そっか。良かったね?」

「はい。…でも」

「でも?」

「その、少し可哀そうで。先輩は先輩なりに私に思うところがあったんでしょうし、私もあの頃は今と違って世界で一番不幸なのは自分だ。みたいにうじうじしてました。嫌なら嫌って言えば良かったのに。反省してます」

「ふふっ」


 ほんっと正直だなぁ。この娘。だからユナとしての私はナタリーさんにパートナーになって欲しかったんだよね。申し出て良かった。


「ユイさん?」

「ナタリーさん」

「はい?」

「貴女を選んで良かった。本当にそう思うよ。私御使いの仕事もあるから常にハンター業務をするわけにはいかないけど、空いた時間があればナタリーさんに会いに行くから。だからこれからもよろしくね」


 私は手をナタリーさんに差し出す。

 ナタリーさんは少々戸惑ったようだったけど、最終的に私の手を取ってくれた。


「はい。これからもよろしくお願いします」

「はい。言質取った。まだまだ受付嬢は辞めさせないからね?」

「へあ! は、はひ。辞めません。頑張ります」

「うんうん。じゃあ夜の散歩楽しんでね」

「はい!」


〘話は纏まったようじゃな。ではもう少し上昇するぞ〙


 言うが早いかクラウスさんの操竜によりやや斜め上を向くクロ。

 その体は雲よりも上へ。

 

 本当に美しい夜空。星に手が届きそう。

 私たちはその後暫く夜の空中散歩を楽しんだ。




 イリス様の御使いと魔獣ハンターの二足の草鞋(わらじ)

 私はユイの名とユナの名の両方を歴史に遺すことになる――――。

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