番外編02.記憶のパズル その2
胸糞内容注意です。
<シルア>
マスターが意識を失った原因。
ワタシはその原因である男に会いに来ました。
あの後この男を王国に戻すか否かで少しゴタゴタしましたが、話し合いの結果、戻すことには戻しますが、それはマスターの体調が完全に戻ってから行うということになりました。
従ってこの男は今ナナセの町の刑務所に拘留されています。
こんな場所使われない方がいいに決まっていますが、いかにマスターが争いなど起こらないよう頑張ろうとどうしても犯罪は起きてしまいます。悲しいものですね。かつて人間により虐げられていた亜人たち。
そんな亜人たちが平和な町を作ろうと集まったのがこの町であり国なのに犯罪に手を染めてしまい警備隊に捕まった亜人たちが何名か牢に入れられています。
ここは男性用刑務所ですからね。【彼ら】はワタシの姿を見て後ろ暗い気持ちがあるのでしょう。そそくさと後ろを向きます。
そういう気持ちが残っているのなら犯罪行為などしなければ良かったのに。
そう思いますが、彼らには彼らの理由があったのでしょう。
最も、だからと言って犯罪は犯罪。許されるものではありませんが。
"コツコツコツッ"
刑務所の石畳にワタシの革靴の足音が響きます。
無言で歩き、刑務所の一番奥に来ると男が入れられている牢がありました。
『お元気そうですね』
「あんたか。こんなところに何の用だ?」
『いえ、少しお話が聞きたくて来てみたのですよ』
男はここに至っても薄ら笑いを浮かべています。
自分の立場など分かっていないのでしょうか? 神経を疑いますね。
いえ、もしかしたらこれがこの男の日常の顔なのかもしれませんね。
――――品がない。
「聞きたいことってのはなんだ?」
『面倒ごとは早く終わらせたいので単刀直入に聞きます。貴方は転生者ですね?』
男の顔色が少し変わります。
最も驚愕というものではなく面白いものを見たという顔になったということですが。
本当に人を苛つかせる男ですね。正直あまり長くここに留まりたくありません。
「へぇ、どうしてそう思うんだ?」
ここにきてはぐらかしますか。
いえ、言葉遊びのつもりなのかもしれませんね。
この男の遊びに付き合うことになるのは少々癪に障りますが、まぁいいでしょう。今は情報が欲しいですからね。
『まずワタシは他の転生者を知っています。先に釘を刺しておきますが、聞かれてもそれが誰なのかはお教えしませんよ。
貴方のその身なり。ここでは見ません。だから転生者だと思ったのですよ。どうですか?』
この世界はマスターにより技術などが格段に進歩しました。
ですが急には脳が追い付かない部分などあるのでしょう。
進歩した現在でも建物や船や衣服などデザインが昔のままです。
中身は最新技術が使用されているのですけどね。
マスターもそんなちぐはぐが気に入っているでしょう。自分自身も部屋着は前世のものですが外出着はこちらのデザインのものを好んで着ます。
漆黒のフード付きローブの下はこちらの世界のチェニックにハーフパンツなどそういった装いです。
「なるほどな。けど俺が転生者なのかどうかは俺自身にも分からねぇな」
『それはどういう?』
「あ~、つまりだな」
男の説明が始まります。
どうやらこの男相当な屑のようですね。
聞くと元々その日暮らしのような生活をしていましたが、ある時ギャンブルですべてのお金を失い、寝場所に困った男は刑務所なら雨風がしのげる屋根と壁があると思い立ち犯罪を行うことにしたようです。
呆れてものが言えません。
すでに聞くに堪えませんでしたが情報収集のため黙って続きを聞くことにしました。
「で盗みに入った家で僅かばかりの金と包丁を手に入れてだな」
その段階で捕まっておけば良かったのでは? と私は続きを聞いてから思いました。
この男はその包丁で女性ばかりを狙って通り魔と呼ばれる行為を行ったそうです。
『何故女性ばかりを?』と問うと「弱いから」だそうです。本当に屑ですね。
「最後に刺した女子高生。いい女だった気がするんだよなぁ。顔が思い出せねぇのが残念だぜ」
そう下品に笑う男の話でワタシはそれがマスターだと直感しました。
殺意を抑えるのに大変でしたよ。殺してしまったらワタシがマスターに嫌われてしまいますからね。
マスターは優しいのです。たとえこんな男でも命の灯が消えるのを悲しみます。
いえ、違いますね。家族が手を汚すことをマスターは嫌うのです。それで自分が矢面に立とうとするのですからマスターは不器用な方です。
『それでどうしたんです?』
「ああ、それで俺はその女子高生を刺した後やっぱり捕まるのが惜しくなっちまって逃走を図ったんだ。
歩道橋を走っててそこで俺はそこに落ちてたビニール袋を踏んだ。足を滑らせてすっ転んでその時運悪く頭を強く打ってお陀仏ってやつだ」
間抜けな死に方ですね。この男には相応しいですが。
「けどよぉ、死んだと思ったら俺はオルステン王国つったか? そこの魔術師共の前にいた。そいつら俺のことを勇者様なんて言い出すんだぜ? 異世界転移だか転生だか分からねぇがほんとにあるんだな。笑っちまったよ」
『勇者…ですか』
「ああ。なんでも未来に起こる災いから国を守るために召喚したらしい。その時は災いなんてなんのことか分からなかったが、今になって思うと御使い様のあれのことだっただったんだろうな」
なるほど。ワタシは一人納得します。
この男の転生ですかね? 転移でしょうか? イリス様が関わっているわけではないことが分かって一安心です。そんな筈はないとずっと思っていましたが、証明されましたね。この男はオルステン王国の者の手によってこちらの世界に来た言わば正真正銘の異物です。
『聞きたいことは聞けました。もう結構です。ワタシはこれで失礼しますね』
男の牢を後にしようとしますが、男はワタシを引き留めます。
「まぁ待てよ。最後まで聞いていけって」
ワタシにその話を聞くメリットはもう無いんですが…。
どうしたものかと思っていると男は続きを語り出しました。
やれやれ。面倒ですね。
「なぁ、勇者ってのはいいもんだよな。その勇者の俺が何しても皆多少顔を顰めるだけで誰も何も言わないんだ。
女抱き放題。嫌がる顔も可愛かったな。後、貴族から金を巻き上げてやったりもしたぜ。あいつら連日パーティとかしてるのによぉ、貯めこんでもやがるんだ。金ってのはあるとこにはあるんだな」
この男そんなことをよくもまぁ武勇伝のように語れますね。
もうダメですね。これ以上ここに留まるのは精神衛生上良くありません。
ワタシは無言で今度こそ帰ろうとします。
刑務所の出入り口に向かい一歩を踏み出した瞬間、この男はワタシの逆鱗に触れる言葉を吐きました。
「御使い様。いい女だよな。手も足も出なかったのが残念だぜ。適当にいたぶって心折ってよぉ、抱きたかったぜ。…あんたもいい女だよな。なぁ俺と」
『黙れ』
ワタシは男に詰め寄り、牢の鉄柵の間から右手を差し入れて男の首を掴み持ち上げました。
前に来ていたのが仇になりましたね。
どうでもいいです。それよりマスターを汚したこと万死に値します。
「うっ、が…」
『マスターに免じて殺しはしません。ただ…』
ワタシは男の首を掴んでいる右手の指の爪を男の首に食い込ませます。
「ぎっ!!」
それがこの男のこの世界で最後の言葉です。
くだらない言葉になりましたね。
ワタシは男の声帯を掻っ切りました。
もうこの男が声を出すことはありません。
すべて終わりワタシは男を牢の奥へ投げ込みます。
声が出せなくなりもがいていますが無駄ですよ。
貴方は死ぬまで話せません。
さて、帰るとしましょうか。
ワタシの様子を見て男がこちらに駆け寄ってきます。
鉄柵をガタガタ揺らしてますが、なんでしょう?
ちゃんと言葉にしてくれないと分かりませんよ?
少しの間だけ何か言うのを待ってあげましたが何も言いません。
つまり言いたいことはないということでしょう。
なんて。ふふ、ワタシも意地悪ですね。
ふむ。良心が少し痛みますね。では…。
『治癒魔法』
声帯はそのままで首につけた傷は治しました。
ではさようなら。




