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番外編01.記憶のパズル その1

番外編始まります。

 オルステン王国。

 その国はかつてはセレイア大陸で随一の栄華を誇っていた。

 そこに住む人間たちは亜人を奴隷にして死ぬまで働かせ自分たちは働かず奴隷たちから搾取して甘い蜜だけを吸って生きる。

 連日パーティを開催して美味い物を食べて飲んで踊って笑う。

 裏を見なければそれはそれは華やかな国だった。

 しかしその栄華も今は昔。

 現在のオルステン王国は国全体が刑務所といった有様。

 女神イリスの御使いユイより天罰を落とされた後、オルステン王国に何処からともなく現れた複数の機械人形(ゴーレム)

 機械人形(ゴーレム)たちは迷いの森の木々を使い基礎を組み上げた後、オリハルコンにてそれを補強。あっという間にオルステン王国に高い高い壁を作り上げた。

 足を引っかけるところもろくにないその壁は故にそこを登ることは不可能。

 仮に何らかの手段で登り切ったとしても連日連夜壁の上に見張りとして勤めるその壁を作り上げた機械人形(ゴーレム)たちに叩き落される。何しろ機械人形(ゴーレム)は疲れを知らない。睡眠も必要なければ食事だって必要ない。魔素があればいつまででも動き続ける。つまり見張りが途切れることはない。

 出入り口は表と裏に二箇所だけ。

 そこにも機械人形(ゴーレム)がいてこの国の者たちが逃げ出さないよう見張っている。

 たまにそこを出入りするのはユグドラシルダンジョンからこの国に食事などを届けるためにユイから派遣されたメイドが数名。

 餓死などさせないための処置であるが、魔法という力を無くして生きる気力を失った人間たちにそれはどれ程の屈辱であろうか。

 それでも彼らは塀の中で生きていくしかない。

 いつかユイに赦されるその時まで。

 

◇<ユイ>

 そんな鉄壁の刑務所に脱獄者が現れるなんて思ってもみなかった。

 【彼】は地下に穴を掘り、逃亡を成功させた。

 穴を掘る者が現れるかもしれない。

 それは私も警戒してた。

 でも普通の刑務所じゃなく国全体が刑務所。

 外でそんなことをしていたらすぐに機械人形(ゴーレム)に阻止されるし、かと言って何処かの建物の中から外に通じさせるまでにはとんでもない距離がある。

 その距離を穴を掘ろうなんて考える人物なんていないだろうって思ってしまった。

 だから思った考えを放棄していた。

 油断した。完全に私の落ち度だ。

 私はその知らせを聞き、すぐに捜索隊をユグドラシルダンジョンから出した。


 幸いにも彼はすぐに発見、捕縛された。

 魔獣に襲われかけていたところをアーシアちゃんが発見、魔獣を討伐後お縄にしたのだ。

 脱獄から一時間後のことだった。彼の自由は一時間で終わりを告げた。


「ユイお母さん、ただいまー」

「おかえりなさい。お疲れ様」


 微笑むアーシアちゃんをナナセの町のユーリス近衛警備隊(インペリアルガード)詰め所特別室で出迎えた。

 ここはその名の通り特別な来客などが訪れた時などに使用される部屋。

 今は私たちの貸し切りになっていて警備隊隊員も入らないように言ってある。

 アーシアちゃんの背後に両手に縄、首にも縄が巻かれ憮然としている男性の姿。

 初めて会った筈なのに何処かであったことがあるような気がする――――。

 私が首を傾げていると男性は私に頼み事をしてきた。


「なぁ、あんた御使い様だよな? 俺を自由にしてはくれないか」


 その頼みの返事は決まっている。


「私がはい、勿論良いですよ。…なんて言うとでも?」

「だよなぁ」


 男性は私のその応えを予測していたのだろう。

「くくっ」と小さく笑い声を漏らす。

 その薄ら笑いと声。人のことをあまりあれこれ言いたくないけど、なんていうか品がない。


(嫌な笑い声…)


 私がそれを意識した瞬間、激しい頭痛が私を襲った。

 

「っ…」


 血の気が引いていく。立っていられなくなって特別室の床に膝をつく。

 それを見て慌ててこちらに駆け寄ってくる私の家族。

 一番に私の大切なお嫁さん・リーシャが辿り着いて私の体を支えてくれる。


「ユイ。ユイ、どうしたの? しっかりして!」


 その顔は心から私のことを心配している顔だ。

 そしてそんなリーシャの碧の双眸に映る私は土気色の顔色をしていてまるで死にゆく者のよう。


「ユイ、ユイ!!」

『マスター!!』

「ユイお母さん!!?」

「ユイさん、どうしたにゃ!!」


 皆の声が遠い。

 薄れゆく意識の中で記憶の濁流が起きる。

 忘れていた一部のピースもしっかり嵌る。

 私はここに捕縛されてきたあの男に殺された――――。



-- 

 あの日受験を終えて帰路についていた私。

 歩道橋の階段を上りきったところでその通りから悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃあああああああ」

「うわわぁぁ。逃げろーーーー」

「通り魔だ。早く早く逃げて」


「えっ!?」


 振り返った時にはその男は歩道橋を上って来ていた。

 両手で握られている刃渡り十五センチの出刃包丁。

 顔に気色な笑みを浮かべていて着ている服と同様に人を刺した返り血であろう(あか)が付着している。


「くくっ」

「あっ…」


 私は恐怖で動けなかった。

 男が走ってくる。ここからはスローモーションの世界。

 ゆっくりになっているのに逃げずにただ見ているだけ。

 気が付けば腹部に熱を感じ、何かと見下ろすと深々と刺さった包丁。

 制服に広がる紅。膝をつき倒れようとするさなか、男は私に言い放った。


「お前が悪いんだ。お前が女だから」


 理不尽で身勝手な理由だ。

 私はそんな理由で殺された自分が悲しくて涙を零しながら冷たい鉄の床に倒れた。

--



「んっ…」


 沈んでいた意識が浮上する。

 まだ少し朦朧としていてここは何処だろう? なんて思いながら視線を動かす。

 ここは私とリーシャの婦々の部屋。全体的に白で纏められていて可愛い物とネタ扱いなよく分からない物が混在している。

 

(で私はベットの中か。何があったんだっけ?)


 漸く少し落ち着いてきた意識の中に温かいものを感じる。

 右手から。そちらを見ると私の右手を両手で包み込んでくれているリーシャの姿。

 ベットの傍に椅子を置いて本人はそこに座ってうたた寝。

 私を看病してくれている最中に陽の優しい熱と光にやられてしまったのだろう。

 そんな妻が愛しい。可愛い。


「リーシャ」


 体を横向きにしてリーシャの手に手を添える。

 それと同時に目を開けるリーシャ。


「ごめん! 起こしちゃった?」

「……ユイ!」


 少しの間の後、リーシャが立ち上がる。

 それにより椅子がそこそこ大きな音を立てて床に転がるが今はそんなこと気にする余裕はないらしい。


「ユイ、大丈夫なの?」


 不安そうな顔。長い耳が垂れてる。エルフって耳にも感情が出るから分かりやすい。

 私の手を握る手のその力が強くなる。

「まだ少しクラっとするけど大丈夫」そう断ってから手を放してもらって半身を起き上がらせる。

 手招きすると抱き着いてくるリーシャ。あ~、もう。ほんっと可愛いなこの娘。


「何があったか話してくれるわよね?」

「うん。思い出したんだ。私の死因。今から話すね」

「ええ。でもその前に」

「んっ!?」


 …! リーシャに押し倒された。

 ベットに押し付けられてキスされる。

 ………長い。そろそろ酸素が欲しい。でもリーシャはまだ離れない。


「んんんんっ!」


 ギブアップ。リーシャの肩をぺちぺち叩くと彼女は漸く離れてくれた。


「ぷはっ。ハァハァハァ…」

「ハァ、ハァ…ハァハァ。死ぬかと思ったわ」


 私と同じ酸素不足だったのだろう。リーシャの顔が少し紫。

 だったら私がギブアップする前に離れたら良かったのに。

 なんでそんな無理をしたのか。


「心配させた罰」


 尋ねるとぷいっとそっぽを向きながらリーシャ。

 これ罰なの? どっちかというと…。


「私にとってはご褒美なんだけど」


 愛しい妻からのキスなんだ。

 ちっとも罰にはなってない。


「じゃあもう一度」


 キス、して。それから私たちはお互いを求めたくなり、そのままその気持ちに任せてシーツの海に溺れた。

ブックマーク、評価などありがとうございます。

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