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23.エピローグ

◇<ユイ>

 数年後…。


「ユグドラシルよ。私は帰ってきたーーー!」


 ユグドラシルダンジョンの出入り口。大岩の前に立った私は何かに突き動かされたかのようにそう叫んだ。

 

『…マスター?』


 隣に立っているシルアから若干冷ややかな口調で呼ばれる。

 私はその程度では動じない。だって私はここ数年でメンタルをバッチリ鍛えられたんだから。


「元ネタは知らないんだけど私の前世に家? 国かな? に帰ってきたらそう叫ばないといけないっていう文化があってね」

『マスターが元々生きてた世界って変わってたんですね。それでは様々なところで叫び声が聞こえて煩かったのではないですか?』

「いや、必ず叫ばないといけないってわけではないんだけど」

『はあ。では何故先程マスターは叫んだのですか? 何か法則と言いますか、決まりがあるのでしょうか? マスター、これまで叫んだ事ありませんよね。今回が初めてということは何か重要な秘密が?』

「ないよ。なんとなくここで叫ばないといけないって気がしたから叫んだだけ」

『そうですか』


 風が私たちの間を通り抜けていく。

 あれれ? なんだろう。この微妙な感じ。

 やってしまった感というかなんというか。

 私かな? 私が悪いのかな。

 話題替え。話題替え。


「……しかし今回も疲れたね」

『お疲れ様です。マスター。ですが今回は比較的簡単に纏まった方ではないですか?』

「まぁ…」


 私がイリス様にイリス様の義理の妹だなんてとんでも発言をされてから世界は比較的穏やかになった。

 それまで戦争戦争また戦争をしていた国々も本物の女神を見てから物事の考え方が変わってなるべく対話を心がけるようになったのだ。

 それでもたまに思い出したように小競り合いが発生したりする。

 その時の仲裁をいつの間にか私が担うようになって内心面倒臭いと思いながらも私はそれに従事している。

 世界中を飛び回るようになってから結構久しい。

 今回もハイエルフの郷と魔族の国が喧嘩を始めてその仲裁に行っていた。

 他者と関わりたくないハイエルフ。

 私たちの国ユーリス神聖王国と貿易をしたい魔族の国ノルドラド。

 魔族の国の手前にハイエルフの郷があるため魔族たちは私たちと貿易するには大きく道を迂回しなければならない。

 それを嫌った魔族の外交官はハイエルフの郷に赴きこの郷の道を使わせて欲しいと願い出た。

 ハイエルフたちはそれに反発した。

 一度使わせればそのうち調子に乗って徐々に無茶なことを言い出すに決まっていると。

 そんなことは言わないと魔族側。絶対言うとハイエルフ。話し合いは平行線。

 ここで私にお呼びがかかった。


--

「ってわけなんだ」

「っというわけなんですよ」

「はあ…」

「説得してくれませんかね。御使い様」

「追い出してくれませんか。御使い様」

「えっと…」


 両者一歩も譲らない対立。

 私は頭を悩ませた末、思いついたことを提案してみた。


「なるほど。それはいい。さすが御使い様だ」

「それならこれまで通り静かに暮らせますね。さすが御使い様です」

「何とかなりそうで良かったです。それではとりあえず両者握手を」

「御使い様に」

「御使い様に」

「「はんざーい」」


「意味が分からないよ…」

--


『地下に穴を掘ってそこに機械馬(ゴーレムホース)の馬車が通れる道を作るとは考えましたね』


 ユグドラシルダンジョンの中、家までの帰路を歩きながらシルアが感心したように言う。

 しかし私の前世では地下を使うなんて結構ありふれてることだった。

 地下鉄とか地下シェルターとか水害から都市を守るための地下フィルターとか。

 私はそれを思い出して提案しただけだ。

 なのに褒められて嬉しいやら照れるやら。

 まぁ悪い気はしないので素直に受け取っておく。

 

「ほら、水道管も地下を通ってるでしょ」

『ああ、そうですね。なるほど! さすがマスターです』

「あんまり褒められるとくすぐったいかな」

『可愛いですね。マスター』

「あははっ」


 そうこうしているうちに家が見えてくる。

 その玄関前に立ってキョロキョロと周りを伺っているのは私のお嫁さんリーシャ。

 リーシャとはユーリス神聖王国の国民や同盟国の人々に温かく見守られながら一年前に結婚した。

 アイリスという世界全体ではどうか知らないけれど、少なくともこの大陸では初の同性婚だってシルアからそう聞いた。

 それにしては前々から婚約発表などしていたためかすんなり受け入れられた。

 誓いのキスを交わして感極まってリーシャに抱き着いてしまった時は結婚式の参列者に生温かい茶々を入れられて二人して顔を紅く染めてしまった。

 今となってはそれも懐かしい思い出。

 近頃は私たちに倣い同性婚を挙げる人々も少しずつ増えている。

 式後私たちの養女となったアーシアちゃんとミケちゃんももう少し大人になったら私たちが挙げたその会場で結婚式を挙げるのだとそう言っていた。

 仲良しな二人。ただ何がキッカケでそうなったのかはまだ聞けてない。いつか話してくれるかな? 義理の娘と惚気合戦できたらいいな。いつかそのうち。


「リーシャ」

「…! おかえりなさい、ユイ。シルアさんも。……わっっ!!」


 私の可愛いお嫁さんに飛びつく。

 好きで好きで堪らない。これでも前よりは精神的な意味で成長したのにリーシャの前では昔の私に戻ってしまう。


「リーシャ、好きだよ」

「私もよ。…ほら、娘たちが見てるから」

「いいじゃん。見せつけようよ。アーシアちゃんたちだってよく私たちの前でイチャイチャして見せつけてくるんだからさ」

「そうだけど」

「リーシャーーー…」

「…二人きりになりたいの」

「あ! はいっ」


 リーシャが小声で私に言った言葉。

 その意味を理解して頬が火照って熱くなる。

 可愛すぎるよね。私のお嫁さん。

 世界一可愛い。異論は認めない!!

 

「じゃあ行こっか。リーシャ」

「ええっ」

「ユイお母さんもリーシャお母さんも顔真っ赤だよ」

「リンゴみたいにゃ」

『昨夜はお楽しみでしたね。…と明日の朝言いますね』

「「揶揄わないでよ!!」」


 私とリーシャは家族の温かい視線? と温かい声? を聞きながら私たち婦々(ふうふ)の部屋へ急ぐ。

 廊下で途中振り返ると私に手を引かれるリーシャは幸せそうに微笑んでくれていた。


-----

翌々日の朝。


「ふぁぁぁ」


 今日も天気が良く気持ちの良い朝。

 私は羽毛布団の中で小さく欠伸を零した。

 目は覚めているのだけど起き上がることはしない。

 布団の中に身を潜めて大好きな私の彼女が起こしに来るのをワクワクしながら待つのだ。


――――end.

これにて本編は終了となります。

次回からは番外編となります。

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