22.警備隊入隊試験
この話には 〔軽度のヘテロラブ要素〕 が含まれています。
苦手な方は注意してください。
レオン君のお話ですので。
女神イリスの降臨で世界情勢は大きく変化した。
それまで人間より下だった亜人の立場が向上。人間と同じ地位を持つようになった。
人間より上にならなかったのは、イリスとその義理の妹と発表された御使いことユイがどちらが上とかそういうものを好まないだろうと人々が思ったからだ。故に人と亜人は同列となった。
尚、イリスに総本山の称号を剥奪されたズゥードデン聖国は求心力を失い僅か一年足らずであっという間に衰退していった。
今ではユーリス神聖国かエストリア共和国に吸収合併もやむ無しという気運が国に漂っている。
元ズゥードデン聖国の教皇ヨーゼダン・コンラーディンはその後のシルアたちメイド軍団の調査でユイの予想通り私腹を肥やしていた。時には少女を攫い我がものとしていた等の犯罪行為が白日の下に晒され、教皇の座を降ろされ罪人に転げ落ちた。この時の調査で枢機卿などもそれに関与した疑いが明らかになり、ズゥードデン聖国大聖堂の膿は一掃された。
彼らはもう日の光を見ることはないだろう。
というよりも彼らの処遇は新生大聖堂幹部に任せられたのでその後どうなるか分からない。
酷い扱いを嫌うユイでもそこまでは関与しない。
大体彼らが少しでもズゥードデン聖国大聖堂の新幹部や国民に好かれているならばそこまで酷い扱いにはならないだろう。そうじゃないなら自業自得である。
そんな中、ユーリス神聖国の首都ナナセの町では新人警備隊を選抜する試験が行われようとしていた。
<レオン>
ついにこの時がやってきた。
俺のこれまでの訓練の成果を出し切るとき。
俺はこのナナセの町。ユーリス神聖国の人々を守る存在になるため頑張ってきた。
その夢が叶おうとしている。
見たところ今期の入隊希望者の中に俺より強い奴はいない。
それもこれもシルアさんの地獄のしごきのおかげだ。何度も死にかけた。
訓練で死ぬなんて冗談じゃない。本気で辛かったが俺は耐えた。
その甲斐あって自分で言うのもなんだが俺は強くなった。
ユイさん、リーシャさん、シルアさん、メイドさんたちには敵わないがその他の奴には勝てる自信がある。
いや、アレクシアとミケには確実に勝てるわけではないな。
今のところかろうじて勝ち越しているが気を抜けば敗北を喫しかねかねない。
アレクシアは魔法。ミケはその素早さが厄介なんだ。
あいつらも強くなった。しかし前より随分仲良くなってる気がするが何があったんだ?
まぁいい。今は目の前の入隊試験だ。
俺は圧倒的勝利で警備隊入りする。その暁には愛しのユイさんに告白するつもりだ。
入隊試験を見に来ている観客席を見る。
特別席に座っているユイさん。こっちに気づいて笑顔で手を振ってくれた。ヤバい。可愛い。可愛すぎて心臓が張り裂けそうな程煩い。体が熱い。
ん? アレクシアの奴。どうして俺を可哀そうな者を見る目で見てやがるんだ?
意味分からねぇなぁ。まぁいい。兎に角これが終わったら告白だ。
うずうずするぜ。早く始まらねぇかな。
一戦目で全員の度肝を抜いてやる。
お! 司会者が壇上に上がったな。いよいよか。
その前にユイさんから発表があるらしい。
ちょっと頬が紅いなユイさん。何か分からないが可愛いな。
「私事だけど発表があります。気づいてる人も多いと思うけど、私ユイ・ナナセとリーシャ・エシュアルはこの程正式に婚約者となりました。同性愛なんてって思う人もいるよね? 私も正直言うとね、最初は自分で自分にびっくりしてた。でも恋に性別なんて関係ないと思うんだ。私はリーシャが好き。大好き。だから私を慕う皆にも私たちのことを認めて…。までは言わないから見守って欲しいかな。どうかよろしくお願いします」
ユイさんが小さく頭を下げる。
拍手で沸く会場。
少ししてリーシャさんが壇上に上がり、ユイさんの手を幸せそうに取って再び今度は二人揃って皆に頭を下げる。
「二人共素敵ですーーーー」
「絶対幸せになってくださいね!!」
「お似合いですよー!!」
大歓声に包まれる会場。
照れながら壇上を降りて退場するユイさんとリーシャさん。
そんな中で俺は魂が抜けていた。
嘘だろ。ユイさんとリーシャさんがそんな関係だったなんて。
だって二人は。…いや、でも悔しいがお似合いだった。
二人の相手はお互いしかいないって素直にそう思った。
告白もせずに失恋かよ。
涙が零れそうになったため思わず天を仰ぎ見た。
その時背後から俺の肩に置かれる手。
振り向くとアレクシアとミケ。
二人で手を繋いでまるでさっきのユイさんとリーシャさんのようだ。
「実はわたしたちも恋人同士になったんだ。レオンにはお世話になってるから言っておこうと思って」
「は?」
「だからわたしたち…」
「いや、分かってる。聞こえてる。おめでとうって言えばいいのか? けどこんな時に言いに来るか普通」
「それともう一つ。それはミケから」
「まだあるのかよ!」
「あたしとアレクシアちゃんはユイさんとリーシャさんが正式に結婚したら養女に迎えてもらうことになったにゃ。こちらからお願いしたのにゃ。レオン君も頼めばきっと養子にしてくれるにゃ。あたしたちの話は以上…にゃ」
アレクシアとミケは言うだけ言って二人仲良く雑踏の中に歩いていく。
後に残された俺はただ呆然とするばかりだった。
「まじで今言うなよ…。お前ら」
「レオン君。入隊おめでとう」
「はぁ」
その後俺は無事警備隊入りを果たした。
試験前の衝撃。俺はそれを俺の相手となった奴らにぶつけたのだ。
アレクシア曰く「八つ当たり凄かったね」ってやつだ。
俺の相手になった奴は確かに可哀そうだな。
だがこれに懲りずにまた来年試験を受けに来て欲しいものだ。
「君程の実力があれば第一警備隊。通称ユーリス近衛警備隊配属でも問題なさそうだね」
「え! あの警備隊の誰もが憧れるっていうユーリス近衛警備隊ですか!?」
「そうそう。君なら務められるでしょう」
さっきまでの憂鬱な気分も何処へやら。
それを聞いた俺は小さくガッツポーズをして笑んだ。
警備隊には第一、第二、第三…第七と七つの部署がある。
そのうち第一警備隊がユーリス近衛警備隊。その任務はユイさんたちこの国の最重要要人を護衛することと他国からの来客・要人を護衛すること。この国全体を守ること。出動要請があれば各地に赴き仕事をこなす。警備隊に入隊した者なら誰もが憧れる警備隊の花形部署だ。俺がそこに配属。実力が認められて素直に嬉しい。
続いて第二警備隊は首都ナナセの町の警備。首都での様々な取り締まりや町の人々の道案内等はすべてこの第二警備隊が行うことになる。
最後に第三から第五までの部署。この部署の職場は首都以外の様々な場所。国となる前のユーリスはそれまですべての場所がナナセの町と呼ばれていたが国となった今は首都がナナセの町。その他の場所は四つに区切られそれぞれ別の名前が付けられている。その町の警備等が仕事だ。
「では君の相棒となる女性を紹介しよう。カロル君入ってきなさい」
「はい」
第二警備隊の隊長室。隊長のアマーリエさんに言われてドワーフの女性が入室してくる。
「改めてカロル君だ。カロル君、こちらがレオン君。二人はこれからチームを組んで行動してもらう。今日はここだが明日からはユーリス近衛警備隊の詰め所が君たちの本拠地だ。間違えてこちらに来ないようにな。では今日は明日からの行動に備えて二人でお互いのことを知り合ってくれ」
「えっ!?」
「よろしくお願いします。レオンさん」
「いや、こっちこそ…よろしく」
手と手を取り合う俺たち。
この時の俺は将来この子が俺のかけがえのない妻になるなんて思ってもいなかった。
それを機にユイさんの元から旅立ち、独り立ちすることになるとも。
しかもそのまた数ヶ月後には可愛い娘が生まれるのだ。
しかし今の俺にはそれはまだ四年程先の話。




