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18.夏祭り

◆<リーシャ>

 生まれてから十九回目の夏。

 例年ならああ、夏だなくらいで終わりだが今年は特別な夏だ。


「た~まや~」

「えっとか~ぎや~だったわね?」

「うんうん。リーシャと花火見れて嬉しいっ」

「っ。私もよ」


 私の隣に恋人・ユイがいる。その恋人と見る花火という名の炎系魔法?

 ナナセの町を歩いているときに突然「夏祭りがやりたい!」なんて言い出したときは何事かと思ったけど開催してみればなるほど! これは楽しい。

 

「いらっしゃいいらっしゃい」

「たこ焼き食べてって―。たこ焼き」

「チョコバナナあるよ。甘いよ。美味しいよー」

「温玉上げ。揚げたてだよー。食べてって」


 町の最も大きな通りに出ている屋台。

 ユイが広めた食材で作られたものが威勢の良い店主の下で売られている。

 ナナセの町を建設した当初は自分は手を殆ど貸さず住民に任せると言っていたのにいいのだろうか。

 と思わないこともないがユイも住民も楽しそうだから野暮なことは言わないでおこうと思う。


"パーーーーーーーーーーッン"

「「「うわぁぁぁぁぁぁ」」」


 また一つ大きな花火が上がる。

 大歓声。何気なくユイの横顔を見ると心底楽しそう。

 

(こういうところがあるから余計に子供って思っちゃったのよね)


「ふふっ」


 笑みが漏れる。

 その声が聞こえた?

 こちらに振り向くユイ。


「何?」

「いいえ、なんでもないわ」

「そっか。ねぇリーシャ、楽しんでる?」

「ええ、とっても楽しんでるわ」

「良かった」


 ユイがはにかみながら私の手を握ってくる。

 ドキッとする。ユイは甘えるのが上手い。


 

 ここは穴場というところらしい。

 近頃建立されたニホン通り。そこにわざと古ぼけさせて作られた神社の一角。

 機械人形(ゴーレム)と亜人たちが力を合わせて人工の小山を作り神社はその上に建てられている。

 おかげで前方、花火が見やすい。後方は神社建設後に植樹された樹と迷いの森の元々の樹のおかげで私たちの姿は上手く隠れていて、余程近づかれない限りは私たちがここで何をしていても気づかれることはない。

 

 穴場ってそういう意味なのね。


 理解したら頬が熱くなった気がする。

 ユイと目と目が合う。――――可愛い。


「もう少し近寄っていい?」

「ええ、勿論よ」


 地面に広げた茣蓙の上。

 ユイと私の距離が縮まる。


「リーシャ」

「ユイ」


 闇夜に打ちあがる花火。

 その光に照らされる私とユイの影は重なり合って一つとなった。



<アレクシア>

 今わたしとミケちゃんは必死に息を殺してとある場所の茂みの中にいる。

 目視できる距離。離れた場所にいるのはユイさんとリーシャさん。

 花火っていう炎系魔法? が打ちあがるって教えられてた時間帯になった時に二人が一緒に何処かに行くのを見つけて好奇心で着いてきてしまった。

 ミケちゃんは「やめた方がいいにゃ」って言ってたけど自分の心が抑えきれなかった。

 わたしの大好きなユイさん。その彼女さんとなったリーシャさん。

 二人がどんな風に過ごすのか見てみたかった。


「むわぁ。久しぶりに見たにゃあ。やっぱりお二人のキスは綺麗にゃあ」

「ちょっとミケちゃん声が大きい!!」


 さっきまでの理性あるミケちゃんは何処に行ったの!!?

 今は体を半分茂みから乗り出して超興奮状態。

 尻尾がピンッと天を刺すように上がってる。


「アレクシアちゃん、見たにゃ? 見たにゃ?」

「見た見た。見たからちょっと静かに」

「むにゃあああ! 尊いにゃあああ」

「だからっ!」


「誰? 誰かいるの?」


 ほら。気づかれた。

 ミケちゃんの口を押えて咄嗟に猫の鳴きまねをする。

 こういう時はそうするのが一番って本で読んだ。

 これで上手くいってくれる筈だよね。


「なぁぁぁうううっ」


「野良猫みたいね」

「だね。また誰かに見られてるのかと思った。さすがにキスシーンを絵にされるのはごめんだよ」

「ふふっ。確かに」


 良かった。ほんとに上手くいった。

 ユイさんとリーシャさんはもうわたしたちに見られてることなんて忘れてまた二人でベタベタし始める。

 ユイさん、幸せそう。わたしの入り込む余地なんて何処にもないって思い知らされてしまった。


「もがっ、ぷはぁぁぁ。…アレクシアちゃん」


 そうこうしているうちにミケちゃんがわたしの拘束から自力で抜け出る。

 心配そうな顔。そんな顔して欲しくないな。


「ミケちゃん、見つからないように帰ろうか」

「アレクシアちゃん、泣いてもいいにゃよ?」

「泣かないよ? その代わり」


 わたしはミケちゃんを抱き締める。

 こうすると不思議と落ち着くんだ。

 ミケちゃんには癒しの効果があるみたい。


「はぁ、失恋しちゃった」

「アレクシアちゃん…」

「ねぇ、ミケちゃん。帰ったら癒してくれる?」

「分かったにゃ。任せるにゃ」

「うん! 期待してる」


 それからわたしたちは抜き足差し足で神社を抜け出してユグドラシルダンジョンに帰宅した。

 部屋に戻ってきた後、何を思ったかミケちゃんがわたしにねこじゃらしを手渡してきた。


「にゃーんにゃーん」


 わたしが振り回しているねこじゃらしの動きに合わせて右に左に飛び回るミケちゃん。

 ねぇ、これって癒しなの? 

 でも、可愛い…かな。あははっ。

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