17.かき氷の宴
◇<ユイ>
アイリス。この世界のこの大陸には地球の日本と同じように四季がある。
春が四ヶ月、夏が五ヶ月、秋が二ヶ月、冬が三ヶ月。
その年によって多少前後することはあるけど大体こんな感じ。
今は春が終わって夏。
日本で夏というと湿気が多くひたすら暑くて辛い季節という感じだけれど、こっちの夏は温暖化が進んでないためか案外過ごしやすい。湿気もそんなに多くない。どっちかというとカラっとしてる。気温だって体温に近い又は超える気温なんてことはない。それよりも少し低い。
だからか子供たちは今日も元気に外を走り回っている。
町行く私を見つけて「遊ぼう」と声をかけてくる子たちもいたけれど、今日私はちょっと用事があるのでそれとなく断った。
その代わりちょうどいいので子供たちに同行を頼む。
「美味しい物が食べられるよ」って目の前に餌をぶら下げたら子供たちは簡単に釣れた。
私だからだよね? 知らない人にそう言われて釣られたりとかしないよね? 大丈夫だよね? 私信じてるからね。
今も着々と進化していっているナナセの町。その町を唯の一人から数十人の集団になって歩く。
最近日本を模したお城とか家とか通称ニホン通りという場所が建立された。
私が学校の授業で雑談として話したことを子供たちが親に話す等したのだろう。
それを面白がった親が私に詳細を聞いてきて、それに応えたらこの場所ができあがった。
「過去と未来。西洋と東洋が融合してる感じ」
お城は日本のお城だから当然東洋のもの。
家はお城までの直線道は江戸の長屋っぽいのが軒を連ねているけれど、この通りを外れると西洋の今の建物がある。
これはこれでいいんじゃないかな。ナナセの町の観光名所の一つだね。
生活に密接に関係するものだけじゃなくて、娯楽施設などが作られるようになったということはそれだけこの町の皆に余裕ができたということだ。お金の面も心の面も。
「ふふっ」
つい笑みがこぼれる。
そんな私を見て子供たちが「御使い様どうしたの?」とか尋ねてくる。
「ちょっと嬉しくてね」そう言って子供たちに笑むと子供たちも笑み。
可愛いなぁ。いつから私はこんな子供好きになったんだろう。
ううん、アーシアちゃんたちと暮らし始めてからだ。
子供たちは町の、世界の宝だ。だってこの子たちが将来世界の舵取りを担うのだから。
「皆、素敵な大人になってね」
私がそう言うと子供たちはその意味が分かっているのか分かっていないのかは分からないけど、「はーい」と元気よく返事をしてくれた。
「夕焼け小焼けの 赤とんぼ負われてみたのは いつの日か~♪」
子供たちと日本の童謡を歌いながら歩く。
途中から私たちの様子を見た何人かが合流して大所帯になったけれど気にしない。
そうやって皆で楽しく歩いているとあっという間に目的地に辿り着いた。
「とうちゃ~く」
「ここ~?」
「御使い様ここでなにするのぉ?」
「それはね~…」
今いる場所はナナセの町のまだ開発が進んでいない場所。
かつては迷いの森の森の一部だったところ。防御壁がそこを通って区切っているという点を除けばまんま森が残っているとも言える。
ここはこのまま残してキャンプ場とかにしたらいいと思う。
ううん、そうするべきだ。うん、後でバジル町長に提案しよう。そうしよう。
「今日はここでかき氷作るよ!」
「かき氷~? 何それ~?」
「冷たくて美味しいものだよ」
「冷たくて」
「美味しいい!」
子供たちの目が輝いている。
日本程暑くないと言っても日差しはやっぱり強いからね。
それにここまで歌いながら歩いてきて喉も乾いただろう。
だからこれから作るかき氷は余計に美味しいと感じる筈だ。
「じゃあ始めるよ!」
DPで取得した収納魔法からいそいそとかき氷器や複数種類のシロップ、机や椅子などを準備。
無詠唱で氷魔法を発動。魔法で出した氷をかき氷器にセットする。
かき氷器はあえて昔ながらの手回しのやつだ。魔石で動く電動? 魔道? なかき氷器も用意できないこともなかったんだけどね。子供たちもやりたいって言いだすだろうからこれにした。子供たちがやるなら魔道より手回しのほうが自分で作ってる気がして楽しい、よね?
"シャコシャコシャコシャコ"
かき氷器上部のハンドルを回すと氷が回って氷を置いてある台座部の刃が氷を細かく砕いていく。
台座の下のカップに落ちるのは粗めの氷タイプのじゃなくてふわっふわの雪みたいなの。
子供たちから歓声が上がる。できあがったら一番近くにいた子にどのシロップがいいか種類を聞いてそれをかけて手渡してあげた。
「食べてみて」
「うん!!」
まだ小学校一年生くらいかな。
両手で大事そうに受け取るのが可愛い。
少しの間じっと見てからスプーンで氷を掬って口の中へ。
「冷た~い。でも美味しい」
ニヘラ~と笑うのがまた可愛い。
「良かった」そう言うと他の子供たちが殺到し始めた。
「僕も~」
「私も~」
「私ぐるぐるやりたい」
「あ~、俺も俺も」
予想通り。特に年齢低めの子はやりたがる。
逆に小学校高学年くらいになると御使い様の私から手渡されるのが嬉しいみたい。
そうなるだろうと臨機応変のため複数台のかき氷器を収納魔法から出してセット。
皆でワイワイ好きなようにして楽しむ。
いつの間にか大きなお友達も混じっていたのには笑ってしまった。
この場の近くで仕事をしていた人たち。子供たちの様子を見ててどうしても食べてみたくなったらしい。
「うがっ! 頭が」
「掻き込んで食べたりするからですよ。白米じゃないんですから」
「見た目でつい。面目ないです」
「「「あはははははっ」」」
大の大人が子供たちより子供っぽい。
「ご飯は冷たくないよ~」なんて言われてる。
余談だけど、この世界のお米は畑でできる。
ススキを想像して欲しい。あんな感じで生えるのだ。
それで最初は家畜の餌扱いだった。
「美味しいのに食べないなんて勿体ない!!」って私が言って米を炊いて実演して食べてもダメだった。
虫の卵みたいに見える見た目がダメらしい。
前世日本人としてお米がバカにされて敬遠されるのは悔しい。
大人気をなくした私はDPを醤油やカレーと交換して焼きおにぎりなどを作り、なんとかしてお米を食すことをナナセの町に根付かせようとした。
カレーは今ではナナセの町の名物となっているけど出してすぐの時は正気を疑われた。
原因は言わずもがな。
焼きおにぎりもその独特の匂いなどから抵抗があると言われてその場から離れられた。
もうダメかと私が項垂れた時救世主が現れた。
「私、次はこの緑のにするー」
「ねえねえ御使い様。ブルーハワイって何味?」
「えっ…。え~っとサイダー…。ん~、シュワシュワーってする飲み物飲んだことある? あんな味かな」
「ふーん。シュワシュワするのー?」
「しないよー。味だけだよ」
「へー」
それがこの子供たちだ。
好奇心いっぱいで物怖じしない子供たちは私が作ったものを食べてくれたのだ。
感想は人それぞれだったけど、概ね高評価でまず子供たちがお米の虜になった。
そうなれば大人も見て見ぬフリってわけにはいかなくなってお米は無事ナナセの町で食材としての地位を得た。
楽しかったかき氷の宴も宴もたけなわ。
食べて満足した子供たちは宴に急遽参戦した大きなお友達に竹トンボなど作ってもらってそれを飛ばすなどして遊んでいる。
「防御壁の外に飛ばさないように気を付けてねー」
「「「はーい」」」
きゃあきゃあと楽しそうで何より。
この後私も遊びに誘われて久しぶりにかくれんぼや鬼ごっこなどして楽しんだ。
しかし子供の体力って凄いね。
亜人の子だからなのかな? 特に獣人の子なんて体力無尽蔵にあるんじゃないかなってくらいに縦横無尽に森を駆け回ってた。
魔力人形の私がくたくたにされようとは思わなかったよ。
恐るべし。亜人の子。
そう言えば本体のことすっかり忘れてた。
シルアが適切に管理してくれてるらしいからまぁいいか。
この体の方が動きやすいしね。
これからもこのままかな。うん。




