16.女の子同士のキス
<ミケ>
あたしは見てしまったのにゃ。
ユイさんとリーシャさんがキキキキキ、キスをしているところを見てしまったのにゃ。
最初は女同士で? って固まったのにゃ。
でもお二人共幸せそうで見ていてこっちまで幸せになってしまったのにゃ。
それからあたしはお二人のその光景が頭から離れなくなったにゃ。
ユイさんとリーシャさんと顔を合わせるたびにドギマギしてしまうようになってしまったにゃ。
自分たちのこと。特にユイさんは自分のことには疎いのにあたしたちの変化等には鋭いお方にゃ。
当然何かあったのか聞かれたにゃ、あたしはない頭を振り絞ってなんとか誤魔化したにゃ。
言い終わっても微妙な顔をされていたけど、それ以上追及はされなかったからホッとしたにゃよ。
それにしてもお二人共ますます綺麗に可愛くなったような気がするにゃ。
あたしたちもだけど、ナナセの町の人たちがほぉっと見惚れてること多くなったにゃよ。
恋をするとああいう風になるのにゃね。
見てるとあたしも恋をしたくなったにゃ。
うにゃ。恋じゃなくてもいいにゃ。キスをしてみたいにゃ。女の子同士のキス。
でもそう思ったところですぐにできるわけないにゃ。
悶々とした気持ちで過ぎていく日々。
そんな日々に我慢も限界に達したあたしは禁断の手段に出ることにしたのゃ。
「そーっとそーっと」
抜き足差し足忍び足。相手に気づかれないように静かに廊下などを歩くことをそういうらしいにゃ。
ユイさんに習ったのにゃ。
「よしよし。ぐっすり寝てるにゃね」
あたしの目の前にはベットですやすや安眠しているアレクシアちゃん。
何の夢を見てるのかにゃ? とっても幸せそうにゃ。
「いただきますにゃ。ごめんにゃ。アレクシアちゃん」
あたしはそんなアレクシアちゃんにそっと自分の唇を重ねたにゃ。
相手は寝てるからキスされたことなんて知らないにゃ。
だからこのキスを覚えてるのはあたしだけにゃ。
「んむっ」
電撃が走ったにゃ。
女の子の唇ってこんなに瑞々しくて柔らかいのにゃね。
夢中になって何度も何度もキスしたにゃ。
それがいけなかったにゃ。
「何…してるの?」
何度目のキスかにゃ?
その途中であたしの肩が押されて距離を離されてしまったにゃ。
見るとアレクシアちゃんの目がパッチリと開いてる。信じられないものを見る目でこっち見てるにゃ。
まずいにゃ。まずいにゃ。今頃になって頭が冷えてきたにゃ。
あたしは絶対にやったらいけないことをしたにゃ。
アレクシアちゃんの尊厳を土足で踏みにじってしまったにゃ。
「あ、あのにゃ…」
「キス…してた」
「う…」
「初めてはユイさんとって思ってたのに。ミケちゃんに奪われた」
アレクシアちゃんの顔が険しくなるにゃ。
でもユイさんとは無理だと思うにゃ。だって彼女にはもうリーシャさんっていう素敵な恋人がいるのにゃ。ユイさんの性格からして他の人とキスなんてあり得ないにゃ。
「ユイさんは…」
「知ってる」
あたしがその事実を告げようとしたら先に知ってることを言われてしまったにゃ。
知ってたのにゃね。まぁこのユグドラシルダンジョンで気づいてないのはレオン君だけにゃよね。
彼もユイさんのことが好きだった筈にゃ。お気の毒にゃ。しかし鈍いにゃね。お二人の様子を見ていたらすぐ気づくと思うにゃけど。
「アレクシアちゃんはそれでも」
「そう簡単には気持ちは切り替えられないよ。でも奪われちゃったからなぁ」
「あ、あのごめんにゃさい…」
とんでもないことしちゃったにゃ。
あたしはこれもユイさんから習った最上級の謝り方土下座でアレクシアちゃんに謝罪するにゃ。
許してもらえなくても何度も何度も謝るにゃ。
あたしにはそれしかできないんだからにゃ。
「ごめんにゃさいごめんにゃさい…」
「はぁ。そこまで謝るなら罰は受けてくれるよね?」
「勿論にゃ。なんでもするにゃ。させたいこと言って欲しいにゃ」
「ミケちゃん、女の子が何でもするって軽々しく口にしたらダメだよ。ユイさんたちに叱られるよ?」
「うっ…にゃ」
そうにゃね。このことを知られたら説教部屋行きにゃね。
ユイさんとリーシャさんは諭してくれる感じの怒り方だけど、シルアさんは怒らせると死ぬほど怖いのにゃ。
"ごくり"想像して唾飲んじゃったにゃ
あたしのその様子を見てアレクシアちゃんは面白いものを見たって感じで笑い始めるにゃ。
ちょっと酷くないかにゃ? 人の不幸は蜜の味かにゃ。自業自得だけどにゃ。ああ、憂鬱にゃ。
「ミケちゃん」
「はいにゃ」
「わたしと契約してわたし専用の抱き枕になってよ」
なんにゃ? その白い動物が刺繍された布。
ユイさんにそのセリフを言う時は使うように言われたのにゃ?
一生使うことはないだろうと思ってたのに出番があったにゃってアレクシアちゃん、ちょっと嬉しそうにゃね。
それにしてもその白い動物なんか嫌な感じがするにゃね。
なんていうか、信用できない目してるにゃ。
まぁ今はその動物のことじゃないにゃよね。
「…にゃ? 抱き枕にゃ?」
「うん。ほら、こっち来て」
あたしは言われた通りアレクシアちゃんの隣に行くにゃ。
ベットに隣り合って寝た瞬間、アレクシアちゃんはあたしに抱き着いてきたにゃ。
「ん~、良い感じ。じゃあおやすみなさい」
「おやすみにゃ」
「…すうすう」
「ってはや。早いにゃ。寝入り良すぎにゃ!!」
「………すうすう」
「またニヤニヤしてるにゃ。どんな夢見てるにゃ」
ふぁ。アレクシアちゃんの寝顔を見てるとあたしも眠くなってきたにゃ。
おやすみにゃ~…。
この日からあたしはアレクシアちゃん専用の抱き枕になったにゃ。
毎日毎日一緒にベットのにゃか。
時が幾らか過ぎていくうち……。
「ねぇ、ミケちゃん。わたしたち恋人になろうか?」
「にゃ!!」
アレクシアちゃんのほうから私に初めてのキス。
あたしたちは恋人になったにゃ。
あたしアレクシアちゃんを大切にするにゃ。幸せにするにゃ。誓うにゃあ。
そのうち大人になったあたしとアレクシアちゃんはユイさんたちの使徒で養女となるのにゃ。
後に知将と呼ばれるようになるあたしの恋人アレクシアちゃん。
あたし自身も疾風の剣姫と呼ばれるにゃ。
恐れられ、称えられるあたしたち。
武功ばかりが語られるその裏であたしたちはユイさん、リーシャさんにも負けず劣らずのバカップルであったことが明らかにされるにゃ。
それはまた別の話にゃ。




