12.ナナセの町
◇<ユイ>
三ヶ月後…。
今日は視察も兼ねて亜人たちの町を散策中。
この三ヶ月、この町もそれなりにいろいろあった。
まず町長の選抜が住民投票により行われた。
それにより初代町長に選ばれたのはエルフ族の長老さん、バジルさんというらしい。
名前を聞いた時にピッツァの上に乗ってるあれを想像しちゃったのは仕方ないよね。
次にそのバジルさんが町の名前を決めたのはいいんだけど、ナナセの町って私の苗字!!
当然反対したけど、反対一に対して賛成多数でこの町はナナセの町に決定してしまった。
その瞬間、誰もがうんうんって頷いてた。住民だけじゃなくシルアとリーシャまで。
意味が分からないよ。解せない…。
他にも細々したことがあったけど、それは記すまでもないので割愛。
そんなこんなでナナセの町。
ユグドラシルダンジョン内に比べたら劣るけれど、多分この世界では一番文明が進んでいる町だ。
活気に溢れてるし、暮らしている住民は皆笑顔、いい町だと思う。
ここがこの先どう発展していくのか楽しみ。
この世界には魔法がある。だから私の思いもよらなかった文化を作ってくれるかもしれない。
ユグドラシルダンジョンより劣るものにしたのはそのためだ。
それと亜人たちにはこの先の進化を自分たちでしていって欲しいから。
なんでもかんでも私がやっちゃったらそれが当たり前って思って誰も努力しなくなるからね。
それじゃダメなんだよ。思考を停滞させたら人はそれで終わりだよ。
…とか言いつつ私はDPに頼ってだらだらするんだけどね。
私はいいの! 私は自他共に認めるダメ人間なんだから。今更なんだよ。
「ここももうちょっとで完成かぁ」
ふと足を止めて現在機械人形と共に亜人の大工さんたちが建設している建物を見る。
小学校と中学校が一体となった施設。その先には大学。高校はない。
日本と同じように小、中と義務教育期間を設けて子供を学校に通わせて欲しいと私がナナセの町の住民に提案したその時は多少荒れた。
この世界・この時代、子供も貴重な労働力って考えるのが一般的らしいから。
アーシアちゃんを保護した二日目の朝に彼女たちからそう聞いた。
だけどこれは子供の未来のために絶対に必要なこと。
子供に読み書きや計算を覚えてもらうことで人を騙そうとする悪人から身を守れるようになってもらうんだ。
そのために教育が必要なんだと説いたら皆渋々ながらも頷いてくれた。
この時読み書きができないばかりに人間に言われるがまま言われるように奴隷契約書にサインしてしまって奴隷となってしまった人たちが私に味方してくれたのも大きい。
やっぱり経験者が語ると違うよね。子供を思う親は慌てて入学を決めてくれたよ。
ちなみに義務教育期間中のその資金は九割が私持ちで残りの一割が住民持ち。
一割だから払える筈だけど、それでも払えない人には奨学金が受けられるようになっている。
その奨学金は日本のと違って返済義務はない。そして誰でも受けれる。正し、本当に必要かどうか面接は受けてもらうけど。
後、高校がないのは今はまだそこまで上級の教育は必要ないから。将来必要になれば建設する予定。
義務教育の後は希望者は大学進学可。この大学は大学って名前だけど実際は研究施設みたいな感じ。
魔法学とか、薬草学とか、医学。思う存分ここで研究してもらうのだ。
「最初は大学で大人にも読み書きとか計算の勉強とかしてもらおうかなぁ」
基本奴隷だった亜人たちは読み書きなどできない人が多いから。
「問題は…」
教員が足りない。
私とリーシャとシルアは強制。
他にメイドさん数名。メイドさんはシルアが数百名に増やしてるけどそれでも足りない。
皆それぞれ様々な仕事の指導なんかをしてるから。
「またシルアに増やしてもらうか」
私は一人悩みつつその場所を後にした。
<レオン>
俺はレオン。オルステン王国の元奴隷だ。
自分で言うのもなんだが、俺は獣人の中でも犬系の獣人であるためか、その血がそうさせるのか、奴隷時は結構主人に従順な奴隷だった。
だがある時、主人が俺の仲間に理不尽に暴力を振るっているのを見て、それまで溜まりに溜まっていた不満が爆発した。
だってあいつ俺の仲間を買い物に行かせて、その買ってきた物に間違いがあるからって仲間を殴る蹴るし始めたんだぜ?
本当に間違いがあったなら俺の仲間も少しは悪いさ。だからって暴力は必要ないと思うけどな。
けど仲間が買ってきた物に間違いはなかった。
あいつが間違えて伝えていたものを仲間のせいにしやがったんだ。
俺はあいつの腕に噛みついた。
俺に噛みつかれた時のあの時の顔。今でもざまぁみろって思うぜ。
だけど俺は奴隷の分際でありながら主人に噛みつく奴隷の風上にも置けない奴。
として殺処分を受けることになった。
迷いの森に捨てられて、魔獣に囲まれた時はもうダメだと思ったな。
でも俺は生き延びた。ユイさんたちに助けられたんだ。
ここでの生活は奴隷だった時とは天と地の差がある。
美味しい食事、温かいお風呂、ゆったりくつろげるベッド。
それだけでも感極まるのにユイさんたちは俺たちの長所を見つけてそこを伸ばしてくれようとするんだ。
運動が得意な俺は将来、ナナセの町の警備隊隊員になるつもりだ。
そのために毎日のトレーニングは欠かさない。
今日もユイさん宅の庭でトレーニングをしていたらユイさんが俺に声をかけに来た。
「ねぇ、レオン君。小学校の生徒兼体育の先生になってくれない?」
聞くと俺の運動能力は並外れているらしい。
自分ではそんな自覚なかったんだけどな。
「やります! 任せてください」
「良かった。ありがとう」
これで恩が少しは返せる。
それに俺が体育教師としてユイさんに多大な貢献をしたらユイさんは俺に振り向いてくれるかもれない。千載一遇のチャンス。逃す理由がない。
「あ、あのユイさん」
「後はアーシアちゃんとミケちゃんにも打診してみようかな。あの二人も小学校レベルの問題なんて話にならないくらい余裕だろうし」
ユイさんはそう言ってアレクシアたちのところへ歩いていく。
俺だけじゃないのかよ!!
これくらいでは挫けねぇ。いつかきっとユイさんに…。
◇<ユイ>
それから一週間後。小中学校は開校した。
子供が子供に教えるということに親も子も最初は抵抗があるようだったけど、それはレオン君たちの能力を見るとすぐに静まった。
で、亜人たちは勉強することに飢えていたみたいで呑み込みが早い。
これは将来が楽しみっ。この子たちは世界を変えるかも、しれないね。




