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10.楽園?

<とあるエルフの長老>

 女神イリス様の御使いを名乗る堕天使様が儂らの前に現れ、奇跡を起こし、儂らをお救いくださるという言葉を言ってくださった後、儂らは眩い光に包まれた。

 儂はこの時、死んだと思った。

 救いとは死のことで儂らは女神イリス様の元へ旅立つのじゃと。

 やがて光が収まり、暫くしていつも通りの視界を取り戻した儂らが見たのは、ここは楽園?

 やはり儂らは死んだようじゃった。

 じゃがもしここで暮らせるのならばそれも悪くない。


「ここが女神イリス様が住まわれている死後の世界じゃな。なんとも素晴らしい場所じゃな」

「死後の世界? ここはアイリスだよ? 皆は死んでないよ?」


 儂の呟きに反応して背後から聞こえてきた女性の声。

 振り向くと先ほどの堕天使様こと御使い様。


「み、御使い様!!」


 目と鼻の先。これほどのお傍で御使い様のお姿を拝見できようとは。

 膝を折り、地面に頭を擦りつけようとするとその前に御使い様に止められてしもうた。


「そんなことしたら体が汚れるでしょう。それに私は祈られることなんて望んでないよ。私は御使いでイリス様じゃないしね。祈るならイリス様に祈ってね」

「しっ、しかし…ですな。貴女様は堕天使様といえ天使様で…」

「天使でも堕天使でもないよ。私は極々普通の何処にでもいる人間の女の子だよ」


 可愛く微笑まれる御使い様。

 喉まで「嘘じゃ!!」と出かかっていたのは秘密じゃ。

 我ながらよく耐えたわい。自分で自分を褒めても良いじゃろうな。

 仲間たちを見ると皆苦笑いしておる。

 さては全員儂と同じ言葉を吐こうとしておったな。


「さて、今日から皆さんにはこの町に住んでもらいます。最初の援助はするけど、その後は皆さんで町の運営をできるようになってくださいね。もう一度言いますよ。最初しか援助しません。ずっと続けるとそれが当たり前になって何も努力とかしなくなってしまいますからね」


 御使い様の言うことはもっともじゃ。

 しかし先まで奴隷であった儂らが運営などできるようになるのじゃろうか。

 不安が隠せぬ。そもそもこの町に住んでいいというのは本心なのじゃろうか。

 こんな立派な町に? 儂ら亜人が? 普通に? 信じられん。


「あ、あの」

「はい?」

「御使い様は僕たちをどうしようとしていらっしゃるのでしょうか」


 おいおい。御使い様にそんな質問とは命知らずな若者じゃな。

 じゃが儂もそれは聞いてみたい。

 多少不本意じゃが、良い質問じゃぞ。若造よ。

 さて、御使い様からはどんな応えが飛び出すのかの。


「別に何もしないけど? しいて言えば良いご近所さんになって欲しいかな。美味しい食べ物とか役に立ちそうな道具とか作ってよ。そうしてくれたらリーシャたちと遊びに来るから」

「はい?」


 な、なんじゃと? 開いた口が塞がらぬ。

 御使い様は本気で言っておられるのじゃろうか。…あの無邪気な顔は本気じゃろうな。

 儂らを隣人として扱ってくださると? いかん、良い歳をしているのに泣いてしまいそうじゃ。

 

「そうそう皆さんにはこれからお風呂に入ってもらいます」


 突然じゃな! お風呂とは桶で水をかけられるのじゃろうか。それとも水魔法じゃろうか。

 御使い様は何やら公衆浴場と書かれた建物のほうへ歩いていく。

 水をかけられるのは辛い仕打ちじゃ。じゃが御使い様には逆らえん。

 全員トボトボと歩く。

 顔色が青いものもおるのぉ。これから行われることを思うと無理もないわい。


「えーっと、じゃあ男性の皆さんはそこのレオン君の指示に従って男湯に進んでください。女性の皆さんは私に着いてきてください」



 ………。お風呂は極楽じゃった。

 体を洗い、お湯に浸かることはあんなにも気持ちの良いものじゃったんじゃな。

 お湯使い放題。これからも掃除のとき以外は好きな時に勝手に入って良いという。

 儂らは実はまだ寝ておって、夢を見ておるんじゃろうか? 起きたらまた過酷な労働が始まるんじゃろうか?

 じゃが感じることなどがあまりにも現実と同じじゃ。

 ということはこれは紛れもない現実?

 はっ、はははは。一夜にして地獄が天国に代わりおった。

 ……生きておって良かったのぉ。



「これから炊き出しはじめまーす。沢山あるから沢山食べてね」


 中華粥というものを始めて食べたが、この世にこんなに美味いものがあるとは知らなんだ。

 女性陣はこれを作ったらしきメイドの女性に早速作り方を聞いておる。

 じゃが簡単にレシピを教えてくれたりするのかのぉ。

 何しろレシピは料理人の命………。


『深めのお鍋に水と手羽先、それから中華だしを入れます。…これですね。それから……』


 教えるんかーーーーーい!!!

 なんなんじゃ。御使い様御一行は。

 儂らの常識と御使い魔御一行の常識は全然違っておる気がするわい。

 うむ。そうと分かればもう驚かんぞ。次に何が出てきても。



 甘かったわい。

 この後、儂らが住むことになる家の中を見せてもらって驚き、蛇口というらしいものを下げると水が、上げるとお湯が出てくることに仕組みに驚き、水洗トイレというものに驚き、羽毛布団という少し体の重みをかけただけで柔らかく沈み体を包んでくれる魔性のアイテムに驚き、儂は今日一日だけでくたくたになった。

 明日は皆が元気であれば職業訓練など始めるという。

 皆が得意なことを探してくれ見つかれば研修。その間も無料奉仕ではなく給金も出るらしい。しかもそれぞれの仕事のやり方をできるだけつきっきりで指導してくださるという。

 皆のもの。儂はもうダメじゃ。あまりに好待遇すぎるじゃろ。

 これが夢であれば現実との格差に立ち直れぬな。

 女神イリス様、どうか明日もこの楽園で目覚めますように。

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