01.プロローグ
本編完結まで執筆済み。エピローグまで毎日18時に1話ずつ更新されます。
◇<ユイ>
「ふぁぁぁ」
今日も天気が良く気持ちの良い朝。
私は羽毛布団の中で小さく欠伸を零した。
目は覚めているのだけど起き上がることはしない。
布団の中に身を潜めて大好きな私の彼女が起こしに来るのをワクワクしながら待つのだ。
(まだかなぁ)
待つこと凡そ三分。ついに待ちに待ったその時がやってくる。
私の部屋のドアを叩く音。私から反応が無いと分かれば躊躇なくドアを開けて彼女が入ってくる。
「ユイ、起きてるんでしょ」
彼女は私のこの対応に慣れっこなので声が若干呆れたものになっている。
「ユイ」
でも私は返事をしない。
彼女がこちらに近寄って来るのをじっと待つ。
「もう」
幾ら呼びかけても無駄だと悟ったのだろう。
これは罠だと分かっていつつも私に近寄ってきてくれる。
「ユイ」
「おはようリーシャ」
「きゃっ!」
彼女を捕まえて布団の中へ。
抱き締めてその長い耳をはむっと甘噛みすると彼女は可愛く呻き声をあげる。
「ひゃっ。ちょっとユイ!」
「リーシャ、可愛い」
「はぁ…! ユイって時々甘えんぼになるわね」
「だって今回も疲れたんだよ。癒されたいんだよ~」
国と国? との抗争に巻き込まれて私は対応するために頑張ったのだ。
その結果体は平気だけど精神面がガリガリと大きく削られた。
だから彼女に甘えてしまうのは仕方ない。
うん、仕方ないんだよ。
「リーシャ、癒して」
「はいはい。可愛い御使い様ね」
私の体の下。彼女が手を私の頭に伸ばしてナデナデしてくれる。
「リーシャ、好きだよ」
「ええ、知ってるわ」
「ほんとだからね?」
「ええ」
愛しくて愛しくて堪らない私の彼女。
私はこの後思う存分彼女に甘えた。
◆<リーシャ>
布団に引きずり込まれてから九十分前後。
私に甘えて満足したユイは再び睡魔に誘われて夢の世界へと旅立った。
私の隣でくうくうと寝息を立てながら眠るユイを愛しく見る。
本人は自分の容姿をあくまで人並みだと思っているが実際のところは超美少女。
胸のあたりまで伸びた黒髪、今は閉じられているが開くと黒に限りなく近い大きくて丸い焦げ茶色の眼。幼さを残した顔立ちと大人の女性に孵化しようとする段階の未成熟でスレンダーな体つきはそれでも何処か色気がある。すらっと伸びた四肢。服から露出している部分に見える肌の色は薄っすらと黄色くも雪のように白い。
「んん…。リーシャ……」
見惚れているとユイが私の名を呼ぶ。
その後デレデレと蕩けた顔。
一体どんな夢を見ているのだろう。
夢の中の私はユイに何をしているのだろう。
ユイは夢の中で私と何を……。
「夢の中の私に嫉妬するのもどうかと思うけど…」
「ユイが悪いんだから」私はそう言い訳して幸せそうに眠る私の彼女、ユイの唇に自分の唇をそっと重ねた。
◇<ユイ>
二度寝から目覚めて少し後、遅い朝食兼昼食を共に済ませた私たちはそれぞれ思い思いのことをしてのんびりとした時間を過ごしている。
リーシャはテラスに置いてある白亜の椅子に座り優雅な動作でダージリンの紅茶を口に運びながらの読書。
私はそのリーシャを絵になるなぁと思いながらのリーシャ鑑賞。
風にさらさらと揺れる腰まで届こうかとしている長い亜麻色の髪の毛、長い睫毛、碧の双眼、女性らしい丸みを帯びながらも出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる均等のとれたプロポーション、雪のように白い肌。何と言っても一番特徴的なのは長い耳。エルフの女性は皆美人さんばかりだけど、その種族の中でもハイエルフという種族に分類されるリーシャ。そんな彼女は美人と可愛いの中間あたりの顔つき。さしずめ日本人と北欧系の美少女のハーフと言ったところだろうか。故に人受けがよく兎に角モテる。そんな彼女の恋人の私はそれが嬉しくもあり、不安だったりもありで複雑な気持ちだ。
「…? 何かしら?」
そんな私の視線に気が付いたらしいリーシャがふわりと微笑みを浮かべて私を見る。
破壊力抜群の笑顔。おまけに亜麻色の髪が太陽の光を浴びて煌めき相乗効果をもたらしている。
「う…、うん、リーシャって出会った頃から変わらないなぁって思って」
あまりに眩しくて直視できず本当に考えていたこととは全然別のことを口走る。
リーシャが立ち上がるのが分かる。私の傍にきて私の首に手をまわして抱き着いてくる。
「ユイも変わってないわよ」
私たちが出会ってもう数年になる。
が、お互いが言うように私たちはその頃から少しも変わっていない。
その理由は片や千年以上の寿命を持つハイエルフ、片や魔力人形であるため。
「出会った頃か。懐かしいわね」
耳元で聞こえるリーシャの透き通った水のような声。
それを心地よく聞きながら私はあの頃を追憶する。