悪役令嬢とグルメおっさん
私はそんじょそこらの令嬢とは格が違う。
私は選ばれし民。
そう選民。
領民に重税を課し、あらゆる贅沢(主に食)をつくした。
そんな私にグルメで勝てるものなど居るはずがない。
居るはずがないのだ。
私は街一番の料亭にお忍びで出かけては最高の料理を口にする。
それが最近の私の習慣となっている。
至高の料理とはただ値段が高いというもので価値が決まるものではない。
この料亭の焼肉定食にとあるスパイスをかけることで、一般的な焼肉定食が一転、至高の料理へと変化するのだ。
このスパイス。
これはどこにでも岩塩がメインだ。
岩塩に胡椒をまぶしすりつぶした唐辛子を一つまみ。
それを焼肉のタレの上に振りかける。
そうすることで至高の料理の出来上がりだ。
このレシピは私だけの秘密のレシピのはずだった。
そう。
私だけのレシピのはずだったのだ。
今日、この場でどこにでもいそうなおっさんと出会うまでは。
おっさんは懐から岩塩を取り出し。
岩塩に胡椒をまぶしすりつぶした唐辛子を一つまみした。
それを焼肉のタレの上に振りかけた。
な……なんてこった。
なんでこんなどこにでもいそうなおっさんが私の秘蔵のレシピをっ!!
「なんであなた、私の秘蔵のレシピをっ!!!」
私はついついこのおっさんに声をかけてしまった。
「フ……。まだまだ甘いなお嬢ちゃん。この焼肉定食にはまだ上がある」
「な、何ですって……」
おっさんは私を一瞥すると懐から更に調味料を取り出した。
この匂い。
この独特で個性的なにおい。
ニンニクだ。
これは刻んだニンニクだ。
まさかこれを焼肉のタレにスパイスするというの?
「そう、そのまさかさ」
至高の焼肉定食にまぶされる刻まれたニンニク。
そしておっさんは私に皿を突き出してくる。
「食って見な。嬢ちゃん」
私は恐る恐る一口スパイスされた焼肉定食を口にする。
こ、これは……!!!!!
甘くて辛いながらもニンニクの匂いがしつこくなくまろやかに調和しているっ!!!
「く……私の負けだわ……」
「フ……まだまだ精進することだな、嬢ちゃん」
私は身を翻し、料亭を後にする。
この私が知らない至高のメニューがあるなんて。
許せない。
絶対に許せないっ。
これからも、私はグルメ道に邁進してやる。
まぁとりあえずあのおっさんは縛り首にしておこう。
彼はどんな味がするのかしら。
私は胸の高鳴りを抑えることができなかった。
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