狐憑きの友人
97.狐憑きの友人
俺が小学校五年生の頃に、仲の良かった杉野という友人に起こった話しだ。
杉野はとても活発な男で、野球も上手くクラスの中心的な存在だった。
腕っぷしも強く、所謂ガキ大将的なポジションにいたと思う。
よく喋り、元気に走り回る杉野だったが、度々クラスを休むことがあった。杉野はその理由を誰にも明かさなかったが、ある時にポツリと幼なじみの俺にだけ漏らした事があった。
「そういう体質で、狐によく憑かれるんだ」
当時の俺は訳がわからず、ふーんと適当に返事をするだけだった。その時の杉野の目は、何故かぎらぎらと血走っていたから、怖くてそうしたのかもしれない。
ある日、杉野たちと集まって野球をしていた時の事だった。
誰かの打った打球が空高く舞って、杉野はそれを捕ろうとグローブを顔の前に構えて打球の落ちてくる辺りに立っていた。
何の事はないセンターフライで、杉野は野球が上手かったのでそんな玉が捕れない訳もなかった。
しかし杉野は、すんでの所で顔の前に構えたグローブをだらりと下げて、ポカンとした様子になった。
空高く舞った打球が杉野の顔面に落ちた。その日に限って俺たちは、何処かからくすねてきた硬球を使っていたので、皆息を飲んで鈍い音と共に仰向けに倒れた杉野を伺った。
杉野は鼻からダラダラと血を流して、目を見開いていた。そうして辺りが固唾を飲んで見守る中で、尋常ではない様子で
「エヒッ……エッヒヒヒヒヒ!! アヒヒヒヒ!」
嗤うのである。その様子は何処か可笑しくて、目線を真っ直ぐ空に向けたまま見開いて、口元だけで笑っていた。
そして動揺していて定かでは無いが、杉野の瞳の色が、普段の茶色じゃなくて、鮮烈な程の赤色に両方染まっていた。
俺たちは直ぐに親を呼んで、杉野を病院に連れていって貰った。その間も杉野は同じように不気味な笑いかたをし続けていた。
杉野は軽い手当てを受けただけで済んで、次の日頭に包帯を巻いて学校に来た。昨日一緒に野球をしていた俺たちは杉野の周りに集まって、大丈夫なのかと問い質した。
すると杉野は茶色い瞳を細くして俺たちを眺めて、「覚えてないんだ、フライの上がった所までしか」と言った。
脳震盪を起こしていたんだから仕方が無いよ、と友人たちが杉野を励ましていたが、俺だけは杉野が漏らしたあの話しを思い起こしていた。
『そういう体質で、狐によく憑かれるんだ』
普段の杉野からは想像もつかないあの様子を思い起こして、もしかして本当に……と不気味に思った。
十年も前になるこんな話しを思い出したのは、つい先日に、しばらく疎遠になっていた杉野の話題を聞いたからだ。
杉野は、四車線ある見晴らしの良い国道の真ん中でトラックに曳かれて死んでしまったらしい。
未だ親交のあった友人に尋ねてみたが、落ち込んでいた所か、来年には今交際していた彼女と入籍する予定もあって、順風満帆な様子だったとか。
杉野は何故か、国道の真ん中にポツンと立ち尽くしていたらしい。あの時の様に、ジッと空を見上げて。そんな様子が付近の防犯カメラに写り込んでいたと聞いた。




