隣に座るおばさん
93.隣に座るおばさん
夕刻に電車に乗っていると、見知らぬおばさんが僕の右隣に座りました。
車内はガラガラで他に座席は幾らでも空いているのに、その髪にソバージュをかけた肥ったおばさんは、僕の真横に座るのです。
なんとなく嫌だなぁと感じながらも、気にしない様にしてスマートフォンでゲームをして過ごしていたんです。
程無くすると、次第に車内が込み合って来て、左隣にも人が座りました。
窮屈に思いながら右隣の足元を見ると、最初に僕の真横に座ったおばさんの赤いハイヒールが見えた。
次の駅で更に何人かのサラリーマンが乗り込んできた。
何人かが僕の前でつり革を持って立ち、上司とおぼしき白髪のおじさんに「どうぞどうぞ」と席を勧め始めた。
目の前のサラリーマンたちは、どうやら僕の右隣の座席を勧めているらしかった。
けれど、僕の右隣には最初から、ソバージュのおばさんが腰掛けている。何を言っているのだろうと聞き耳をたてながら僕はスマートフォンをいじっていた。
僕の右隣に白髪のおじさんが勢いよく座り込んだ。僕はビクリとして思わず隣のおじさんに向けて顔を上げた。
前を向いて談笑する白髪のおじさんに重なる様にして、ソバージュのおばさんがうっすらと透けながらそこに座っていた。
そうしておばさんは、驚いて顔を上げた僕に向かって、勢いよく首を捻って顔を合わせた。
おばさんはニタリと微笑んで消えた。
悪意に満ちたニヒルな笑みだった。




