◯◯4号室
88.◯◯4号室
高校一年の頃、僕は八階建てのマンションの六階。604号室に家族で住んでいました。
何の変哲もない日々だったのですが、ある時、ある瞬間から僕の人生は狂い始めました。
僕はある時、唐突に人の死体を見ることになった。
夏の夕暮れに、マンションの八階から飛び降りた女の人が、僕の目と鼻の先のアスファルトで粉々になる瞬間を目前で見た。
腹が割れて紫やピンクの臓物を撒き散らし、手足は糸の切れたマリオネットの様に無茶苦茶な方向に投げ出されていた。次第に広がっていく足元の血溜まりが、僕のスニーカーの所まで迫ってきた所で、我に返って悲鳴をあげた。
しばらくは精神的ショックで学校を休んだ。それだけで済めば良かったのだが、僕の体調は次第に悪くなった。
連日続くそのあまりの不調さに、僕は母親に連れられて近所のクリニックに受信した。
そうすると、血相を変えた初老の先生が、大学病院に行ってくれと紹介状を渡してきた。言われた通りにすると、僕はとある難病の診断を受けた。そうしてこのまはまかなりの期間ここで寝泊まりする必要があると説明をされた。
高校を一年間休校する事になった僕は、大学病院のベッドで夜毎に目の前に飛び降りてきた女の人の夢を視るようになった。先生はそれを心的外傷後ストレス障害だと話した。
正直に言って本当に死ぬところだったのだが、一年後に僕は高校に復帰するほどに回復する事が出来た。先生は僕を見て奇跡だと言った。
一年後に自宅のマンションに帰ると、例の飛び降り自殺のあったアスファルトが未だひしゃげて窪んでいた。
見ないようにして階段を上がっていると、僕に付き添った母親がポツポツと話し始めた。
「西山くん、ここ引っ越したって」
西山くんとは、僕の同級生のご近所さんだ。僕のマンションの二つ下の404号室に住んでいた。
「なんで?」
「離婚だって」
「それとねぇ」
「なに?」
「面識があるかわからないけど、104号室の荒木さん。孤独死してたのが先月見つかったの」
「え?」
「二階三階五階の7号室に居た人たちも引っ越しちゃってね」
「……」
「うちも来月辺りに引っ越そうと思うの、大丈夫?」
「……うん」
ここのマンションの4号室には、何か曰くがあると噂になったのだろうか? ただの偶然だと思ったが、飛び降り自殺を目撃したこのマンションから早く出たかったので了承した。
「そっか、なら良かった」
そして母親は続けた。そしてそれを言ってからハッとして口元を抑えた。
「この前あんたの前に飛び降りた田口さんは808号室の人なんだって」




