開かずの扉
85.開かずの扉
俺が幼い頃に幾度か訪れたじいちゃんの家には一部屋だけ、開かずの扉があった。
それは二階の一番奥の部屋にある木製の扉なのだが、普段玄関の扉も開けっ放しの癖に、その部屋だけはいつも鍵がかかっていた。
じいちゃんに幾度と無くその部屋の事を尋ねたことがある。そうするとじいちゃんはいつもの様にニコニコと笑って「物置だ。散らかってて危ないから鍵をしとるんだ」と言って俺の頭を撫でた。
父さんも母さんもその部屋の事になると口をつぐんで、直ぐに話題を変えるんだ。
しかし俺はある時、じいちゃんの部屋の机の奥に、隠し引き出しがある事に気が付いた。一見継ぎ目のない様に見えるその机の一部を下から押し上げると、その引き出しが頭を出した。そしてそこには鍵が一つ置いてあった。
俺はその鍵があの開かずの扉の鍵である事をすぐに悟って、鍵を持ち出して、そろりそろりと一階のじいちゃんに聞こえない様に開かずの扉の前に来た。
鍵はすんなりと錠に入り込んで、その内部をさらけ出した。
その部屋の中央に据えられた椅子には、妙に精巧な幼い少女の人形が座っていた。だらりと口元を開け、大きな瞳で扉の前に立ち尽くす俺を見つめている。
そしてよく目を凝らすと、その人形の後方の壁いっぱいに、実写の、ポラロイドカメラで撮影した様々な幼い少女たちの写真が貼り付けられていた。しかも、その写真のどれもこれもが、この部屋で撮影されたのか、背景の壁の色や、天井、そして人形の座っている椅子までもが一致して写り込んでいる。
そして部屋の隅には錆びた手枷と足枷、そして首輪のような物が鎖に繋がっている様だった。
そして特に目立つのが、積み上げられた鉄の箱であった。
異様な光景に訳がわからず立ち尽くしていると、背後の廊下から射す照明が俺の小さな影の上に、もう一つの大きな影を映し出していた。
振り替えると、いつでもニコニコとしていたじいちゃんが、額に青筋を立て、顔を真っ赤にして憤怒している表情を俺に向けていた。
俺は首根っこを掴まれて、強引に部屋から引き摺り出された。そして口の端から白い泡を吹きながら憤慨したじいちゃんが俺に向かって拳を振り上げた所を、母親に助けられた。
以来じいちゃんの家には連れていって貰えなくなった。
大人になってから考えると、じいちゃんはきっと異常者だったのだろうと思う。




