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釣り
83.釣り
よく近所の湖で、小舟を借りて釣りをしていた。
その大きな湖は自殺の名所となっていて、高い橋の上にはよく警察を見掛けた。
しかしそんな事など気にせずに俺はそこで釣りを続けていた。するとある日、糸に変なものがかかった。丁度大きな橋の下での事だ。
釣糸にぐるぐる巻きになった髪の毛の束だった。
気持ち悪くてすぐ棄てた。けれどその次も、またその次も、俺はその湖での釣りに興じた。
ある時、小舟の上で立ち上がって竿を投げていると、足元を引っ張られて座り込んだ。
目線の先で、小舟に半身を乗り上げたずぶ濡れで長髪の女が、俺の足首を腐乱した手で掴んでいた。
声を上げるとその女は瞬く間にいなくなった。
頭上を見上げると、今自分が居るのは丁度大きな橋の下の様だった。
人の飛び降りるあの橋の下にはもう近寄らない様にして、俺は今もその湖で釣りに興じている。




