騒々しい部屋
77.騒々しい部屋
少し離れた大学に通う為に実家を出てアパートで独り暮らしを始めた時の話です。
トタンで出来たそのボロアパートには、どういう訳か自分以外の住人は居ないようで、駐輪場には僕の自転車が一台停まっているだけでした。
夜寝転がってテレビを観ていると、友人から電話があった。
「おー、どうした」
『今何しとるの?』
「いや暇してるけど」
『え、なに?』
「なんにもしてねぇよって」
『え? 何だよパチンコ中?』
「はぁ?」
まぁ確かに他に住人が居ないのでテレビの音量は大きかったから、僕は起き上がってテレビを消した。
「暇してるって。なに集まるの?」
『あぁー、うるせぇよそこ、ちょっとメールするわ』
「はぁ? テレビ消したって」
通話は切られました。辺りはシンと静まり返っているのに妙だと思っていると、友人からメールが来ました。
『何処にいるの? うるさくて何も聞こえんわ、今からカラオケ行かねぇ?』
部屋の窓は開いてもいないし、何を言っているのかわからずメールを返した。
「うるさいって何だよ、俺今部屋に一人だけど」
そう返信すると間も無く友人からこんな文章が届いた。
『すぐににげろ』
とにかく僕は訳もわからずに再び友人に電話した。するとすぐに応答があった。
『もしもし! お前そこやべぇよすぐ逃げろって』
「何から逃げるって言うんだよ」
『わかんねぇけど、ずっとお前のすぐ近くで何人かが喋ってんだよ!』
「え?」
『今も聞こえるんだよお前のすぐ近くで何人か凄いはっきり喋ってる! ていうか何かみんな怒り狂ってる様に聞こえるからとにかくそこから出ろって! 迎えに行くから!』
「マジか」
俺は手近に放り投げてあった上着だけ羽織って、その静まり返っている部屋を出た。やがて友人といつも集まるコンビニまで辿り着くと、友人に電話を掛けた。
「コンビニ着いたぞ!」
『……』
「あのボロアパートマジでヤバいわ霊が憑いてんのかな!?」
『……』
通話は切れてしまった。そして程無くしてメールが届いた。
『もう着くから早くその部屋出ろ』
コンビニで友人の車に乗り込むと、何が聞こえたのかを聞かされた。
女の金切り声や、バンバンと壁を叩くような音、怒り狂ったような野太い男の声で「何やっとんだお前! ぶち殺すぞ! おい!」などとかなりはっきりと聞こえたのだとか。
最後電話をした時にも同じ様に聞こえたらしい。
僕は最後通話した時には既にアパートを出ていたという事を話せなかった。




