幽霊の色
74.幽霊の色
幽霊の色は何色だと思うだろうか?
私は日常的に幽霊が見える。町に行くと必ず二人から三人の幽霊を街角に見かける。電信柱の前に立っているお爺さんや、道の真ん中に座り込んだ中年女性。一様に乏しい表情で、声も出さず寂しそうにしている。町行く人はそんな幽霊の上を気にする風もなく通りすぎていく。
さて、幽霊の色が何色かというと、基本は色を失ったような煤けた灰色だ。来ている衣服も肌も全てそんな色になって立ち尽くしている。
基本は――と言ったが、一度だけ私は煤けた灰色ではない幽霊を見たことがある。
上から下まで真っ赤に染まった長髪の女だった。
そいつは道路の隅で体を揺らしながら、目を見開いて爛々と瞳を輝かせて嗤っていた。
普段は幽霊が居ても見て見ぬふりをするのだが、あまりの珍しさに一度だけ目を合わせてしまった。
真っ赤な女の幽霊はニタァと不気味に微笑んで、私に近付いてきた。普段見る灰色の幽霊とは違い、なんとなくそいつからは明確な悪意の様なものを感じた。なので声を出して助けを求めたかったが、周りの人々は勿論その存在に気付いてもいなかった。
私は踵を返して早足で引き返した。
しかし振り返ると音もなく赤い女が私についてきていた。
私が振り返ると、女は一直線にこちらに駆けてきた。驚いた私は、周りの人々が注目するのも気にせずに走ってアパートに帰った。
無事に自分の部屋にたどり着くと、すぐに玄関のロックをかけた。
私を追い掛けてきたおぞましい存在に恐怖しながら、私は荒げた息を整える為に冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫から水を取り出して一気に飲むと、少し呼吸が落ち着いてきた。すると気持ち的にも少し余裕が現れてきて、リビングに向かってテレビを観ようとした。
しかし――
大きなテレビを置いたリビングから、洗濯物を干す為の小さなベランダが続いているのだが、その薄いカーテンとガラスの向こう、物干し竿の下で、真っ赤な女が激しく上半身を左右に振っていた。
絶句した私は、しばらくその狂ったように振り乱される上半身を見つめていた。よく見ると女はこちらを覗きながらニヤニヤとしている様だった。
急いでカーテンを引くと、女の姿は見えなくなった。
次の日の朝、昨日の事を思い出しながらもカーテンを開くと、赤い女はまだ立っていた。今度はこちらを覗く形で動くのを辞めていた。
ガラス戸越しに赤い女と向かい合うと、女は無表情だったのからまた嗤い出して、体を左右に動かし始めた。
そして赤い女は何時までも居なくならなかった。今でも私の部屋のベランダにはあの女が立っている。
他に幽霊が見える人も居ないので、ずっとそこにいる赤い女の事は誰にも相談できないでいる。




