拭き続ける女
68.拭き続ける女
うちの地元には妙に本格的な都市伝説がある。
それは、人気の無い深夜に白山公園の公衆便所に入ると、ある女が現れるというものだ。
その女は女子トイレの入ってすぐの手洗い場に居て、黒い服を着てひたすらに正面の曇った鏡を拭いているらしい。服の袖で激しく擦って、手洗い場の水をかけているのだとか。
女はこちらに気付いているのか居ないのか、全くこちらに関せずその行為を続けるらしい。それで、その女を無視して個室に入ると、ある時ピタと激しく鏡を拭く音が途切れるんだって。
やっと諦めたかと思っていると、女のがらがら声で
「きたないぃいきたないぃい」
と聞こえ始める。
ハッとして顔を上げると、自分の入った個室を上から覗く形で、顔の爛れた片目の女が頭を出してだらりと髪を下げているんだとか。
「あなたはどう思う? 私の顔」
と今度は妙にはっきりと淡々と聞かれるらしい。
そこで絶叫すると女に何処かに連れ去られ、すぐに綺麗だと答えるとスッと消えていくらしい。
こんなに本格的な都市伝説がうちの地元の子どもたちの間で語られているのは一体何なのだろうか……。




