真夜中のコインランドリー
64.真夜中のコインランドリー
深夜に自動車で走っていると、必ず隣にコインランドリーのある信号で停まる。
田舎で回りに街灯はないのだが、ポツンと建ったコインランドリーは、白いLEDで煌々と光っている。
そのコインランドリーはガラス張りで、こちらから店内の全貌が見えていた。しかし店内に人が居ることを見たことがない。こんな時間だからだろう。
その日も俺は信号待ちをしていた。そうして何と無く運転席からコインランドリーの方を眺めていた。
シンと静まり返った田舎に、ポツンとある眩しい存在は少し異様だった。
「あれ?」
俺は店内の右奥に、こちらを向いて立ち尽くす存在に気が付いた。
「まじかよ」
それは膝ほどまである黒髪を垂らす、真っ白いワンピースを着た女であった。
俺はその存在を確認すると、すぐにそれが見てはいけない存在だという事が直感的にわかった。
信号が青になり、俺は逃げるように車を走らせた。去り際にチラと見ると、やはり白いワンピースの女はこちらを向いて立ち尽くしていた。
後日、また同じ信号で停まった。先日の事を思い出しながら覗いてみると、前回と同じところに、やはり白いワンピースの女が立っている。
ゾッとして見ないようにしていると、一台の軽自動車が対向車線から俺の後ろを通過してコインランドリーに入っていった。
軽自動車からは若い男が洗濯物を持って現れた。そのままコインランドリーに入っていく。
白いワンピースの女がゆるりと開いた自動ドアの方に身を向けた。
しかし若い男は女の存在に気付いていない様子で、淡々と洗濯物を詰め込んでいる。
ワンピースの女は、揺ったりと歩き始めた。
そうして洗濯物を詰め込む若い男の背後を通り過ぎて、開いた自動ドアから一歩外に出てきたのだ。
「うわぁ!」
どうなるのかと他人事のように事の顛末を伺っていた俺は、予想外に店の外に出てきた女に飛び上がった。
しかし、信号は未だ赤を示している。
女は俺の方を見ながら一歩、また一歩とこちらにやって来た。
「はやくはやくはやく!」
次第に女の歩幅は広くなっていって、遂にはこちらに向けて駆けてきた。長い黒髪を振り乱して表情は見えなかった。
「うわぁああ!」
すんでの所で信号が青になり、俺はアクセルを深く踏み込んで逃げ出した。
以来あの信号の前は通らない。
しかし、あの白いワンピースの女はどうして店内に若い男がいるのに俺に向かって来たのか……
信号待ちで俺が女をいつも眺めていたように、女もまた信号待ちをする俺を眺めていたという事だろうか。




