母親に食べられる夢
62.母親に食べられる夢
私は幼い頃から母親に食べられる夢を見る。
お母さんの居る台所のテーブルの上で四肢を拘束され、晩御飯を作った包丁でギリギリと腕や足や腹を裂かれていくのだ。
こんな夢を昔から見るからといって、別に私はお母さんに特殊な感情を持っている訳でも無く、昔何かをされたって訳でもない。
私はお母さんに感謝もしているし仲も良い。お母さんは優しいし、私の事を一番に考えてくれる。
私はお母さんが大好きです。
なのにこんな夢を見続ける――――
切り裂かれた皮膚から溢れる血液や、ひんやりとした金属の押し当てられる感覚。
無表情に私を見下ろすお母さん。
辞めて辞めてと涙を流して懇願しても、とりつく島もなく解体は続行される。
その夢だけは妙に鮮明で、克明に繰り広げられる。恐怖も痛みも状景も全て生々しい程に。
お母さんは無表情で私の足を抑えながら、ズブズブとゆっくり包丁を入れる。私の絶叫は聞こえていないようだ。台所のテーブルから私の赤い血液が滴り落ちた。お母さんのいつもしている青いエプロンが返り血に染まっていく。
切断を終えると、お母さんは私の腕や足や腸をまな板の上に乗せる。
トントントンという音がする時や、ゴリゴリブチュという音の時もある。その日は足首から先を乗せられて――――
ブチ……ゴンゴン……ブヂュル……ゴン!……ブチチ……
と、どうやらミンチにされている様だった。
そのまま私は投げ出されて調理は続行される。
程無くすると、ホカホカと湯気をたてた物がお皿に乗せられた。お母さんはそれを持ってニコニコとしながら、私の拘束されたテーブルの前に腰掛け、ハンバーグの様な料理にナイフとフォークを突き立てた。
私はテーブルの上で仰向けになりながら、それをただ見下ろしている。モグモグと咀嚼するお母さんを呆然と眺めている。
お母さんは途中でハッとした様に私の顔を仰ぎ見た。存在に今気付いたかの様にお母さんは優しく微笑んで
「まり子」
と優しく名前を呼んだ。
そうして血の気の失って真っ青になった私の口に、フォークを突き立てたハンバーグを捻り込んでくる。
「美味しい? 美味しい? 美味しい?」
咀嚼する気も起きず、ダランと落ちた私の顎を、お母さんは下から持ち上げて咀嚼を強要する。
鉄のような血の味が口いっぱいに広がって、夢は終わった。
私は幼い頃からこんな夢を見る。
お母さんの事は大好きだ。痛め付けられたり、怖いことをされたりした事もない。
なのにどうしてだろうか、こんな夢を見続けるのは。
「おはよう、まり子」
台所からお母さんが私に屈託の無い笑みを見せる。
「……おはようお母さん」
私はお母さんが好きだ。なのにどうしてだろう。




