墓地から来る足
56.墓地から来る足
私の叔母から聞いた話しです。叔母は霊感がある人で、時折霊的な物が視える人でした。
片田舎に住む叔母は、ある日の夜。街頭もほとんどない地元の村を車で走っていました。
誰も待っていない信号で停車すると、ハンドルに身を乗り出して仕事で疲れた体を休めていた時、目前の横断歩道を歩くものをヘッドライトが照らし出したのだとか。
それは上半身のない人の足だったそうで、草履を履いた剥き出しの肌色がトコトコと歩いていたのです。
日常的に霊的な体験をしている叔母は、対して驚く事もなくそれを眺めていました。
しかしその足の歩いてきた方向を思い直すと、少し空寒い思いになったのです。そちらにはここの村人の墓地があるだけなのです。
この足は墓地から来たんだな、と思うとなんとなく気味が悪くなって、信号が青になると気にしないようにして家に帰ったのだとか。
翌朝、村の老人が一人亡くなったという訃報が届いた。
叔母は昨日の墓地から歩いてきた足と何か関係があるのかな、と思ったそうです。
その数ヶ月後に、叔母はまたその信号で停車すると、先日と同じように下半身だけが横断歩道を渡っていったのを目撃しました。また草履を履いた剥き出しの足が、ヘッドライトに照らされて克明に映し出されたと聞きました。
また村の人に不幸があるか知らんと思っていると、その日の朝方に村のお婆さんが亡くなったそうです。
それであの墓地から来る足は、黄泉へと渡る村人の足なんだと思ったそうです。
私はこんな話しを叔母から聞きました。しかしその話しを聞いて私は思ったのです。叔母が視た足が黄泉へと渡る足ならば、村人の死後に墓地に向かって歩いていくのではないかと。
つまり、村人の死の直前に墓地から村に向かって歩いていく足は村人の物では無く、村人を迎えにいく者の足なのでは無いかと。
死神というのが本当に存在するのかはわかりませんが、そう思った。




