赤い顔
55.赤い顔
ある時私は夜中に目を覚ましました。
暗い室内で、何と無く右手の側の壁のある一点が気になって、立ち上がって電気を点けたのです。
すると真っ白な壁の一部に、真っ赤な男性の顔が貼り付いていた。
その顔は彫刻の様に動かず、見開いた目も動かしませんでした。ただ真っ白な壁の一部に、呆然と真っ赤な顔が貼り付いているのです。
もっと良く見てみようと目を細くして近付いていくと、私の目前で赤い顔の目がギョロリと動いて私を見ました。
「うわっ!」
驚いて後ろに尻餅を着いた際に、パジャマの袖に蛍光灯の紐を引っかけて部屋が真っ暗になりました。
直ぐに立ち上がって部屋の電気を点けると、そこに赤い顔はありませんでした。
怖かったのですが、その日はそのままベッドで眠った。
後日、また夜中に目を覚ました私は、また赤い顔が現れた時の様に壁のある一点が気になりました。
しかし、先日怖い思いをした私は、気になるのを我慢して毛布を頭から被って丸まったのです。
シンと静まった室内で妙に耳が冴えてくると、ぶつぶつ、ぶつぶつと壁の方から何かが聞こえるのです。それこそ例の赤い顔が貼り付いていた辺りから。
「……し…………こ…………ない…………」
しばらくガタガタと震えていましたが、その声はぶつくさと判然としない言葉を発し続けていた。
すると私のくるまった毛布の上に、バサッと何か覆い被さる様に落ちてきた。
咄嗟に毛布を押し返すと、そこに何も無かったかの様にあっさりと毛布がめくれあがって足元の方に落ちていった。
私は声も出せずに絶句した。
めくりあげた毛布の先で、先日の真っ赤な顔が無表情で私を見下ろしていたのです。
そして私は布団の中で目覚めました。
あれは夢だったのでしょうか? そして私に何を伝えようとしたのでしょうか?
毛布は足元の方に投げ出されていた。




