金縛りと老爺
53.金縛りと老爺
よく金縛りと霊的な体験を絡めて話す人がいるが、金縛りは既に医学的に解明され、頭がボンヤリと覚醒しているが体はまだ眠っているというストレス等によって起こる現象で、正式には睡眠麻痺と言われている。
つまり、金縛りに遭遇した人が口々に霊的な体験をしたと話すのは、金縛りに対して霊的な先入観があり、おぼろげに覚醒した頭でそんな事を考えるがために発生するただの夢なのである。
だから霊的なものを一切信じないこの俺が金縛りになった時に毎度見るあの老爺は、俺にとって不可思議な存在となっている。
俺は近頃良く、所謂金縛りになる事がある。夜中にふと目が覚めたかと思うと耳の奥からジーーと聞こえてきて、体が固まっている事に気が付く。
その時には上記で説明した金縛りの医学的な見地を知っていたので、俺はむしろ興味深くこの自分に巻き起こっている現象を好奇心いっぱいに楽しんでいた。
本当に指先一つも動かせない事を確認すると、仰向けで眠る俺の腹部に何かが落ちてきた。
俺の腹の上には老爺が一人座っていた。その恐ろしいほどの無表情のまま、ジッと俺の顔を見下ろしている。
――――こんなの想像してないんだけどな……ていうか誰だろうこの爺さん。
別に怖くは無かったが、見知らぬ老爺にこうもジッと見つめられているのは気味が悪かった。
それとも、俺の中にも微かに霊的な先入観があり、それが夢となってこの老爺を産み出したのだろうか?
老爺はそろそろと細い両腕を挙げて、俺の首もとに伸ばしてきた。
そして俺の首を両手で締め上げてきたのだ。
――だ、大丈夫だ。これは俺の想像が産み出した夢だ。今苦しいのだって全て夢だ、大丈夫だ、大丈夫。
呼吸の苦しくなってきた俺は、未だに身動きの出来ないまま、俺の首を締め上げている老爺を見つめながら意識を落とした。
翌朝。目覚めると昨晩の金縛りについて思い返した。俺の中にも霊的な事を信じる心があった事に驚いて、少し笑ってしまった。
「あんなホラー映画みたいな展開あるかよ」
などと言いながら洗面所に行って、冷水で顔を洗った。
そうして顔を上げると正面の鏡に、首もとにハッキリとした手形をつけた自分が映った。
目を凝らしてみるとそれはやはり手形の様に見えた。そして正面から誰かに締め上げられた向きで掌の後が二つついていた。




