えっちな幽霊
えっちな幽霊
私が会社の寮でひとり暮らしをしていた頃の事です。
その社員寮は築五十年にもなり、かなり老朽化していました。
私はこんなボロい寮を早く出たく出たくて堪りませんでした。
シャワーの水圧は弱いしトイレは和式。極め付けは、何か水場に居ると視線のようなものを感じるのです。
ある日私がシャワーをしていると、浴室ドアの向こうに黒い人影が立って、こちらを覗く様にスモーク部分に頭を押し付けていたのです。
「キャアッ」
そう小さく叫ぶと、その人影は消えていました。
昔から私には、いわゆる霊感があって、このような事も過去数度あったので、家の中に誰もいない事だけ確認すると、平静を取り戻して肩を落としました。
「もう、絶対さっさとここを出てやる」
シャワーを出て体を拭いてから、パジャマに着替えてトイレに向かいました。和式の便器が私を迎えます。
「あーもう嫌!」
便器に跨がって腰を落として用を足していると、足元の虚空からヌッと無感情な表情の中年男性が顔を出した。男の顔の上で尿が跳ねている。
「うわあああ!!」
男はまたスッと消えました。
「まさかトイレにまで出てくるなんて……」
何と無くトイレだけは聖域というか、霊にもデリカシーがあって、守られている場所だと思っていたので大変ショックでした。
トイレから出てため息をつくと、私の耳元で男の声がした。
「ごちそうさま」
「…………ッッ!?」
変態の霊なんて始めて出会った。これが決めてとなって、翌日私はそそくさとその寮を出た。




