トレンチコートの露出魔
トレンチコートの露出魔
最近うちの近所で露出魔が出るらしい。どうやらそいつはトレンチコートに深くハットを被った、サングラスでマスクをした露出魔然とした出で立ちらしいと聞いた。
その男が今、俺の数メートル先の電信柱にこちらに背を向けて身を隠している。
俺は正義感に駆られた。何故なら俺には妻と子どもが居るのだ。こんなうちの近所で露出魔が居るとなると、いつうちの家族が被害に会うともわからない。
男はこちらに気付く素振りもなく、夕暮れの影に身を潜めてその先の十字路から獲物が出てくるのを待っているようだった。
俺はその男と同じように電信柱の影に隠れた。そいつが露出魔であるかどうかはまだわからなかったので、その場を現行犯で捕らえてやろうと、その時を待っていた。
じきに男の見つめる十字路に一人の女子高生がやってきた。男は辺りをチラチラと窺って誰もいない事を確認すると、勢いよく電信柱の木陰から飛び出して、その女子高生の目の前でトレンチコートの前を大きく開いた。
「ひぃいいいいッ!! い、いやぁあぁぁああ!!」
お下げ髪の女子高生は町に響き渡る程に絶叫して、顔をひきつらせた。
男は振り返って、こちらに向かって走ってくる。
「待てお前!」
俺は満を持して電信柱から姿を現すと、ピッタリと前を閉めたトレンチコートの男の前に立ちはだかった。
「この露出魔! 引っ捕らえてやるからな!」
そう言い放ったが、男は慌てる素振りもなく、マスク越しににんまりと笑ったのか、片方の頬にシワを作った。
そうして、俺に向かってトレンチコートの前を広げて見せた。
「ひ……ッ!」
男が露出した裸体は、どこもかしこも爛れ、緑色の汁を吹いていた。そして腹の上辺りに出来た頭ほどもある巨大な腫瘍が、ドクンドクンと上下に揺れている。よく見るとそこに頭髪の様な物が見える。その頭髪の下で、きらりと二つの目が光ってこちらを窺っていた。
――――ひっ人!?
男の腹で蠢く謎の生命体に、俺は腰を抜かしてへたりこんだ。
男は「はははは」と笑って夕暮れの町を駆けていった。




