廃村
廃村
僕には変わった趣味がある。バイクで一人廃墟を訪れて、その美しくも儚い光景を写真に納める事だ。
その日も僕は昼間にバイクで一人廃墟となった村を目指していた。
とても車では通行出来ない落石や倒木ばかりの林道をひた走り、とある山林をひたすらに登るとじきにそれは現れた。
十数件の平屋の並ぶ廃村。『華月』という名前に惹かれてここに来たが、僕の直感は正しかったようで、保存状態の良い廃屋が建ち並んでいる。
近くには神社の廃墟もあった、祠や鳥居は荒れ果てて傾いていて、塗装は剥げている。信仰の失われた神社はどうひてこうも切なげに見えるのだろう。
僕はバイクを停めると、その風景に一眼レフカメラを向けた。
伸び放題の草をかき分けて廃屋を巡る、するとこの集落では一際大きな日本家屋が見えてきた。
僕は吸い寄せられるようにそこに歩み寄り、カメラを向けた。
「ん?」
カメラを構えていると、その立派な家屋の丸型の障子に影が横切った気がした。
しかし、辺りに車や自動車も無く、こんな山奥に徒歩でこれるはずもないのだ。
「気のせいか? ……それとも獣か」
少し身構えながらも、その家屋の妙な魅力に取り憑かれた僕は、足音を殺してそのまま近付いていった。
玄関の前にまでたどり着き、再びカメラを向けると、玄関の扉がピシャンと音を立てて勢いよく開いた。
驚いた僕はカメラから目を離して目前の扉を見るが、扉は開いてなどいなかった。
「なんなんだ?」
再びカメラを構えて正面を見据えると、開け放たれた玄関から、鉈を持った大男がこちらに走ってきていた。
「うわぁぁああっ!!」
男の目は血走って、正気では無いような気配がした。しかしカメラから目を離すと、やはりその家屋の玄関の扉は閉めきられたままであった。
訳のわからない僕は、しかしカメラ越しにしっかりと異様な光景を見ていたので、走って逃げた。
この話を誰にしても信じてもらえない。しかし僕が咄嗟に撮影していた写真には、ブレながらも、開いた玄関に佇む鉈を持った男の手元が写し出されている。




