僕の家の近所には何かが居ます。
僕の家の近所には何かが居ます。
これは去年の小学五年だった時に友達から聞いた話です。
瑛斗くんはある日脅えたような表情で、教科書をランドセルに詰める僕のところにやってきました。
驚いた表情の僕に瑛斗くんはこんな話をしました。
昨日近所の公園で友達とゲームをして遊んでいたらしいのですが、夢中になってしまって、気が付くと辺りがオレンジ色に染まる時刻になっていた。
瑛斗くんは手元のゲームから顔を上げて、みんなにもう帰ろうと言ったそうです。
輪になった友達の顔を見回していくと、ブランコの隣に変な人が居たのだとか。
その男はブランコよりも背が高くて、枝の様に体が細かった。それに腕はとても長く、地面に着きそうになっていて、黒い背広の上に乗っかった頭は、つるつるで、輪郭も見えずのっぺらぼうの様に見えたそうです。
とても同じ人間には思えなかった瑛斗くんは、ゲームを投げ出して夕暮れに染まるその細長い男を指差しました。
「みんな見てっ!」
友達は一同に瑛斗くんの指差すブランコの方に振り返りましたが、誰一人として声を上げる者はおらず「どうした瑛斗?」と話すだけでした。
その細長い二メートル以上もあるのっぺらぼうは、未だにブランコの横に立って身動きひとつしていません。
瑛斗くんは震えながら友達に事情を話したそうです。けれど、みんなふざけて笑うだけで誰も信じてはくれませんでした。
瑛斗くんは涙ながらにそんな話を僕にしました。
僕は瑛斗くんを信じると伝えました。すると瑛斗くんは嬉しそうに笑って、怖いから一緒に帰ろうと言いました。
僕はその日瑛斗くんと一緒に家に帰りました。
瑛斗くんは異様にな程に怖い怖いと怯えていたけれど、僕は心の中ではそんな人間が居るわけないのだから、何かの間違いだろうと思っていました。
その一週間後に瑛斗くんは行方不明になりました。
大人たちはそれを神隠し、神隠しと口々に言っていました。
遂に瑛斗くんは見つからず、一年が経った今日でもその行方はわかっていません。瑛斗くんを見たと言う人や、カメラの映像だとか不信な人とかも無く、捜し様がないのだとお父さんは言っていました。
そして昨日の事です。隣の家の由美ちゃんが教室の片隅でこんな話をしているのが聞こえてきました。
「信じられない位大きくて細い男の人を見たの、本当だよ。どうして信じてくれないの?」
僕の家の近所には何かが居ます。




