新人歓迎会の終電で
新人歓迎会の終電で
去年入社した会社の新人歓迎会の日の話です。
僕はたらふく酒を飲まされて、千鳥足で駅のホームを抜けました。
町から地方へと戻る終電たがらか、その車両には僕一人しかいませんでした。
座席に大袈裟に座り込むと、僕は誰もいない事を良いことにイビキをかいて居眠りを始めたのです。
三十分ほどして電車の揺れで目を覚ますと、僕の目の前に女が立っていた。
――驚いた。なんでこんなガラガラの車両で僕の前に立っているんだ? 座席なんていくらでも空いているのに。
リクルートスーツ姿のその女は、何故だかぴったりと僕の正面に立って、こちらに背を向けながらつり革を持たずに立ち尽くしていました。
その女はよく見ると異様に背が高く、つり革に頭が着きそうだった。肩まである長い黒髪の後頭部を眺めていると、妙な威圧感を感じさせられて、正直不快だった。
何処かに座れよと思いながら、僕は座席をズラして座り直してまた目を瞑った。
「ん?」
なんとなく気配を感じて目を開けると、また背の高い女の後ろ姿が目の前にあった。
――なんなんだよ気持ち悪い。
同じ方角を向いて佇む女を見上げながら、とびっきり嫌な顔をしてやるが、無論後頭部にそんなことをしても無意味だった。
女の向こう側の窓に、夜の闇に座る自分が映った。
僕はその反射を利用して女の顔を見てやろうと目を凝らしました。
「え」
窓に反射する僕の顔の隣には、腰まである長い頭髪を携えた後頭部が見えました。
ギョッとして女を見上げると、今まで後頭部だと思っていた頭髪を掻き分けて、女の細くつり上がった瞳と低い鼻筋が現れる。
「海人くん。ふふふふふふふ」
女は直立していた所から急に腰を屈めて僕に目線を合わせた。眼前に真っ白い不気味な女の顔が現れて、その長い頭髪が僕の頭上を覆った。
僕は驚愕して、ただ目を見開いて女の顔を見つめることしか出来なかった。
女は狐の様な目を歪ませて笑った。茶色い歯を覗かせてながら、真っ赤なルージュをした唇がひきつっていた。
僕はそこで駅員に起こされた。
「兄さん、終わりだよ」
座席に足を投げ出した姿勢で目覚めた僕は、リアル過ぎた夢で胸を高鳴らせていた。
「あ、今降ります」
あの女が言っていた海人くんとは、一体何の事だろうか、僕の名前ではないけど……などと考えながら立ち上がると、頬をむず痒く何かが撫でていって咄嗟に手をやっていた。
見たこともない位長い頭髪が、僕の頬や肩に多量に絡まっていた。




