見知らぬ砂と砂嵐
見知らぬ砂と砂嵐
枕元に置いたテレビラックの上のまばゆい光と、白と黒とが混ざりあったザーというノイズで目を覚ます。
真夜中にひとりでに点灯するテレビの砂嵐で近頃眠りが妨げられる。
「またか」
枕から頭を上げると目前にテレビがあるので、俺はそれをひとしきり眺めながらぼやいた。
リモコンはもっと離れたところに置いてある。なのに近頃定期的にこういった覚醒の仕方をさせられる。
寝る前にテレビのコンセントを抜いてみた。
その夜ザーという耳障りな音と、白と黒のチカチカする光が眼前に広賀って目を覚ました。
どういう事なのだろう? テレビのコンセントはどういう訳かまた接続されている。
俺は不快な気持ちでまた砂嵐を眺めた。
眺めていると、ガサガサと画面が荒れて街路樹の様なものが見えた。それと……道? だろうか、それに何処か既視感を感じた。
放送が終了したはずなのにおかしいなと思いながら、パジャマの黒いパーカーのジッパーを上げて布団に潜り込みながらテレビを消した。
二日後にまた同じように目を覚ました。砂嵐を見ていると、前回よりもハッキリと街路樹が見えた。そして道路の前の方にこちらに背を向けて歩く女性らしき長い毛髪がある。
俺はそこでテレビを消して眠った。
一週間後、また真夜中に砂嵐が現れた。いつもの街路樹と白い道路。その先に今日は肥った男の後ろ姿が映った。
テレビの画面がいっぱいに揺れながら、その男に走り寄った。振り返った肥った男の眼鏡が見えた。
そこで眠った。
三日後にまた同じように目を覚ます。
画面を集中して眺めると、今日は道路の先にお婆さんの曲がった背中が見えた。
画面は激しく揺れてまたお婆さんに走り寄る。そして――――
「あっ」
テレビ画面の下の方から黒い袖が生えてきて、お婆さんの曲がった背中を突いた。
崩れ落ちるお婆さんの小さな体。黒い袖の手元には光るものが見え、その切っ先は黒く濁っていた。
ある朝トーストを齧りながらテレビを観ていると、家の近所で連続通り魔があったというニュースがあった。
被害者は二十代のOLの女性と、五十代の中年男性、それと八十代のお婆さんだった。
その晩また砂嵐があった。画面の下の方から黒い袖が見えている。手元にある包丁が獲物を求めて左右に揺らめいていた。道の先に手を繋ぐ親子が見えた。画面は上下に揺れながら親子に近付いていった。
怖くなってそこでテレビを消した。まだ耳障りなザーというノイズが耳の奥で聞こえる。
布団に潜り込むと、妙な寝心地の悪さを感じて部屋の電気をつけた。
俺のベッドに大量の砂が散らばっていた。それがチクチクとする寝心地の悪さの正体だった。
俺の裸足の足には一際沢山の土が付着している。
「あぁ、またか」
俺は馴れた感じで砂を掃除してから布団で眠った。




