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おじいちゃんの買ってきた人形

   おじいちゃんの買ってきた人形


 久しぶりにおじいちゃんの家に遊びにいきました。

 おじいちゃんは私のためにと、何処ぞのフリーマーケットで人形を買ってきたようで、それを私にプレゼントしてくれました。

 私は一瞬人形の年季の入ったつるつる頭を見てギョッとしましたが、おじいちゃんが余りに笑顔なので、喜んだふりをしてそれを受けとりました。私はもう八才になるので、ほんとはゲームとかのが嬉しかったです。

 薄茶色の服を着たハゲ頭の赤ちゃんの人形です。何やら気になったので買ったそうですが、どうしてこんな人形なんか……。

 それから私の部屋のタンスの上には、その赤ちゃん人形が座っています。その何処を見ているのかわかりもしない視線は気味が悪いのですが、大好きなおじいちゃんから貰ったものなので一応飾っておきました。

 しかし、タンスの上で座らせておいたはずのそれは、度々ぽてりと横になっていたり、座る場所が左の方へ少しずれていたりするのです。

 お母さんが良く私の部屋に勝手に入って掃除をしたりするのであまり気にしてなかったのですが、ふとした時にその事を話すと、タンスの上は弄ってないとの事でした。

 とても怖くなった私でしたが、お母さんは見た目が不気味だから見間違えたのよ、と言って笑うだけでした。


 ある日私は何となく寝付きが悪くて、ベッドの中で頻回に体勢を変えたりしていました。壁の時計はもう一時を指していて、寝なきゃ寝なきゃと思うと余計に眠れなくなっていきました。

 暗い室内に瞳が慣れて、ぼんやりと室内の様子が見えるので、何となくタンスの上を見ました。するとそのタイミングで座っていた赤ちゃん人形がぽてりと倒れたのです。

 びっくりして布団を頭まで被りました。そうしてからそろそろと頭を出してタンスの上を見やると、赤ちゃん人形は倒れたままこちらをジッと見ていました。

 怖くなった私は寝返りをうってタンスを背中にすると、枕を整えて目を瞑りました。

 とても静かな夜で、枕に押し当てた耳を清ますと、コォォと血液の流れる音と、どくんどくんと自分の脈が聞こえました。

 それが段々心地好くなってきて、意識が遠退いて来た瞬間、私の耳元で――


「ぎゃあああああああああぁぁ!!!」


 耳元で女の人の叫び声がして、私は飛び起きました。

 そしてタンスの上を見ると、先程まで倒れていた赤ちゃん人形が、座っていたのです。

 もう堪らなくなった私は泣きながらお母さんの寝室に行って事情を話しました。

 その日はそこでお母さんと眠りました。


 次の日私はお母さんと一緒に、近くの神社に赤ちゃん人形を持って訪れました。ここで人形を供養してもらうのだとお母さんは言っていました。

 しばらくすると神主さんが現れて、お母さんの抱えた赤ちゃん人形を見てしかめ面をしました。

「あぁー。良くないねそれ」

 と言いました。その時になってようやく状況を理解したのか、お母さんの顔が青ざめていくのが見えました。神主さんはその後苦い顔で人形を受け取ると、しばらく眺めた後に私と人形を交互に見始めました。

「お母さん、ちょっといい?」

 神主さんはお母さんだけを呼んで、耳元で何かを話しました。ますます血の気の引いた様子のお母さんは、神主さんの話しを聞いて涙ぐむと、私の方を見てから深く頷いていました。

「すぐ始めますのでね」

「はい、お願い致します」

 二人はそう話してから境内の奥にある平屋の方に私を連れて行きました。

 何やら慌てた様子で襖を開けて広い部屋に通されると、神主さんは言いました。

「その人形は君の方に興味をもってるらしいんだ。だからその人形と君を一緒にお祓いするね。お母さんは少し別の部屋に居てもらうけど、大丈夫だからね」

話を聞いてたちまち不安になった私はお母さんに振り返りました。

「大丈夫よ由美子。神主さんが祓ってくれるから、勇気出して頑張って」

 お母さんはハンカチで目元を押さえながら、隣の部屋に行って襖を閉めてしまいました。

 そうして私は神主さんに座布団に正座させられると、膝の前に人形を置かれた。

「少し気持ち悪くなるかもしれないけど、少しだから頑張ろうね」

 何やら白いギザギザの紙が沢山付いた棒を持ってきた神主さんは、私に掌を合わせて目を瞑る様に言いました。

 私は言われたようにして、三十分程神主さんのよく分からない言葉をただ聞いていました。


「終わったよ由美子ちゃん」

 言われて私は目を覚ましました。始めはあんなに緊張していたのに、昨日良く眠れなかったせいか眠っていた様でした。

 膝元の赤ちゃん人形を神主さんが持って、今度は私を外に連れて行きました。お母さんも一緒です。何やらさっきよりもヒドく泣いているので、私は心配になりました。

 外に出ると、篭の中でめらめらと燃える火が私を迎えました。そこの前に立たされると、神主さんはまた目を瞑って掌を合わせる様に言いました。私は言われた通りにしました。お母さんも隣で同じようにしています。

 すると神主さんは勢い良く赤ちゃん人形をその火の中に放り投げたのです。そうしてまたギザギザの紙の付いた棒を振り、何やら唱えながら私の方に来て頭の上を何度も払う様にしています。

 焼け焦げていく人形を見ていると、何故だかこめかみの辺りがピクピクと震えてきました。すると神主さんはいっそう強く何か唱えながら私の頭を払うようにした。

「ギイイイイ! ぎゃああああ!」

 昨日耳元で聞いたつんざく様な女の叫び声が炎の中からしてビクリとしました。お母さんは気付いていない様子でしたが、神主さんは「大丈夫、気にしないで」と私に言いました。

「ヒィィイイイ! アアアアア! ぁぁあああアアアア!」

 絶え間無く続く叫び声に、私はキツく目を瞑り耐えました。

 程無くすると人形は跡形も無くなり灰になって、神主さんも棒を振るのをやめました。


「終わったよ。よくがんばったね」

 神主さんは厳しい表情を弛めて私に微笑みました。私はホッとして大きな息をつきました。お母さんもまた安心した様子で、神主さんにペコペコと頭を下げていました。

「お母さん、また少しいい?」

 神主さんがお母さんを呼んで、また耳元で何かを話しました。ホッとした表情だったお母さんは、神主さんの話を聞くうちに顔をひきつらせ、次第に真っ赤にしていくのが見えました。


 その後、私はお母さんと二人で神主さんにお礼を言って帰ることになりました。

 お母さんに聞いてみたのですが、さっき神主さんと何を話したのかは、教えてくれませんでした。

「由美子。これからこの神社に一ヶ月おきに来なくちゃいけないって。それと、しばらくの間この街からしばらく離れたりするのも駄目だって」

 お母さんは涙ぐんでそう話しました。


 もうお祓いは終わって人形も無くなったのに、何故だろうと思いました。

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【実話怪談を収集しています。心霊、呪い、呪物、妖怪、宇宙人、神、伝承、因習、説明の付かない不思議な体験など、お心当たりある方は「X」のDMから「渦目のらりく」までお気軽にご連絡下さい】 *採用されたお話は物語としての体裁を整えてから投稿致します。怪談師としても活動しているので、YouTubeやイベントなどでもお話させて頂く事もあるかと思います。 どうにもならない呪物なども承ります。またその際は呪物に関するエピソードをお聞かせ下さい。 尚著作権等はこちらに帰属するものとして了承出来る方のみお問い合わせよろしくお願いします。
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