深夜にごみを捨てるおじいさん
深夜にごみを捨てるおじいさん
友人と二人で真夜中のドライブをしていると、まばらな街灯の下を、ぼろ切れの様に汚れた衣服を着たおじいさんが、黒いゴミ袋を持って歩いるのを見ました。
おじいさんはゴミ捨て場にそれを投げると、カラスに荒らされない様にと一番奥に詰めてネットをかけました。
そんなおじいさんの様子を信号待ちしながら眺めていると、友人とこんな会話になります。
「こんな時間になに捨てとるのかな?」
「死体だったらどうする?」
「死体だったらそんなところじゃなくて山とかに捨てるだろ」
他にやることもなかったのでおじいさんの捨てたゴミ袋の中身を見てみようという話になって、僕らは車をUターンさせてごみ捨て場に向かいました。
車を路肩に停車すると、二人で意気揚々とその黒いゴミ袋の固く閉じられた口を緩めました。
「俺は普通のごみが入ってるだけでガッカリすると思う」
「でもあのじいさん格好が異様だったし、こんな夜中にわざわざ捨てるって事は何か変なもの捨てたんだよ」
とか言いながらゴミ袋の中身を二人で見てみると、何枚かの写真と藁人形が胸に釘を打ち付けられた状態で入っていた。
「「うわぁあああっ!!」」
声をあげて顔を見合わせると、僕らはそろそろとゴミ袋の中の写真に手を伸ばしました。
山のようにある写真を二人で半分ずつ眺めていきました。どの写真も街角で勝手に撮られた様な物ばかりで、中年の女性や初老の男などが写っていました。どの人物にも額に釘を打ち付けて開けた様な穴があります。
「気持ちわりぃ……なんなんだよあのじいさん」
「…………」
「ん? どうしたお前」
見ると友人は写真を捲るのをやめて、一枚の写真を目を見開いて凝視していました。肩が少し震えていたので異様に思っていると――――
「これ…………俺の親父だ」
後日友人が昨晩の事を父親に話すと、父親は苦い顔をしてそのおじいさんの事を話してくれたそうです。
どうやら藁人形で人を呪っていたおじいさんの名前は『北村嘉章』という老人だそうで、どうやら先日にリストラをした社員だったそうです。
人員削減を上層部から命じられた友人の父親が、その北村嘉章という定年を越えたおじいさんに白羽の矢を立てた。
その事を告げると北村嘉章は必死の形相で足にしがみついて
「堪忍してください! 私も妻も病気持ちで、収入が無いとの垂れ死んでしまいます、後生ですから堪忍してください!」
と涙ながらに話したそうですが、家族を守らねばならないのは皆同じ事。他の優秀な人材を代わりに選ぶ事も出来るわけもなく、その北村嘉章はそのままクビになったそうです。
なのでその大量にあった写真は恐らく、その会社の社員たちだろうという事でした。
そして恐らく、一番力を込めて写真に釘を打ち込まれたのは友人の父親なのでしょう。
しばらくすると、近所の廃墟の中で一人の老人が死んでいるのが発見されたというニュースが報道されました。近所だったので注意深く観ていましたが、身元は不明となっていて名前は明かされませんでした。
そのニュースを観ると頭に、ぼろ切れを着て歩く北村嘉章が浮かびました。
そういえばあれ以来友人とは会っていません。どうやら父親が急病にかかって手が離せないとの事でした。
あの事と何か関係があるのでしょうか?




