表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/160

私の夢に住んでいる人

   私の夢に住んでいる人


 私の夢には昔から、黒い影が佇んでいます。

 何時からでしょう? 物心ついたときから、夢の中のいついかなるシーンにも黒い影は居るのです。

 表情や輪郭は無く、人のシルエットをした黒い影。私が夢の中でお母さんと話していても、友達と遊園地ではしゃいでいても、鬼に追い掛けられる怖い夢を見ていようと、物語の脈絡に関係無く、常に視界の端に映り込むのです。

 その黒い影は何か喋るわけでもなく、頭を項垂れた姿勢で常に立っているだけでした。

 物心ついたときからそれは私の夢に毎夜現れていたので、あまり怖いなどと思ったことも無かったのですが、この話を友人にするととても怖がるので、良く考えると自分自身でも今更凄く怖くなってしまいました。

 そんな心情で眠ることが関係あるのか、その日からその黒い影は、項垂れた頭をゆっくりとあげると、視界の端で頭を震わせて


「アッハッハッハッハ…………」


 と大きな声で笑うのです。そうなってくると気になって、夢の中の物語がその黒い影を中心に進行していってしまいます。

 常に視界の端にしか映らなかった黒い影が私の正面に現れて、辺りは禍々しい紫色の背景に包まれます。


「アッハッハッハッハ」


 ぶるぶると頭を震わせる黒い影に、私は思いきって話しかけました。


「あなたは誰?」

「アッハッハッハッハ」

「なんで私の夢にずっといるの?」

「アッハッハッハッハ」


「出ていってよッ!!」

 そう怒鳴り付けると、黒い影はピタリと動くのをやめ

「………………」

 黙りこくる。そうしてゆっくりと私に向かって近付いて来るのです。


 そこで私は飛び起きました。ホッとして大きな息を吐くと、額に脂汗が滲んでいるのに気が付きました。

 顔でも洗おうと思って、枕元にある眼鏡を手繰り寄せて掛けると、暗い室内の中、薄ぼんやりと見える扉の方に振り返りました。

「ひ……っ!」

 月の光だけが照らす微かな視界の室内で、私の部屋の扉の前に、暗い影が佇んでいました。

 そうして先程の夢の続きの様に、ゆっくり、ゆっくりと直ぐそこで腰を抜かす私に歩み寄り、そして触れ合う程の距離になると、暗い影の表情が見えました。

 長い髪を下ろし白目を剥き出し大きく開かれた瞳。黒目を下にして私を頭上から睨み付け、肉が腐ったような紫色の顔色で、頬をピクピクとさせて歯を喰いしばるその相貌は、私に強い怨みを持っている事がありありと伝わる程に凄まじかった。

 そしてその暗い影は姿を消しました。


 今でも暗い影は私の夢に現れます。何処かに引っ越そうかとも考えましたが、旅行先でも夢にも現れる事を考えると無駄だと思ってやめました。

 あの黒い影はきっと私の夢に住んでいるのです。

 何処にも逃げることなど出来ません。

 一体何のためにそこにいるのか、未だにわかりません。あの日見たあの怨嗟の表情が頭にこびりついて、恐怖することしか私には出来ない。


 そうして今夜も私は夢に魘されるのだろう。


 誰か……

 誰か私を助けてください。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【実話怪談を収集しています。心霊、呪い、呪物、妖怪、宇宙人、神、伝承、因習、説明の付かない不思議な体験など、お心当たりある方は「X」のDMから「渦目のらりく」までお気軽にご連絡下さい】 *採用されたお話は物語としての体裁を整えてから投稿致します。怪談師としても活動しているので、YouTubeやイベントなどでもお話させて頂く事もあるかと思います。 どうにもならない呪物なども承ります。またその際は呪物に関するエピソードをお聞かせ下さい。 尚著作権等はこちらに帰属するものとして了承出来る方のみお問い合わせよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ