大阪府茨木市のバッドマン
大阪府茨木市のバッドマン
Yさんが二十代の後半の頃の話。
大阪府の茨木市の国道を奥さんを助手席に乗せて夜の八時頃に走っていた。
すると、ただ前だけを見やり、黙々とハンドルを握っていたYさんの視界の右端に、黒い大きな物体が降って来た。
Yさんの運転する黒光りしたセダンは国道の左車線を走っていた。時刻もまだそう遅い訳でもなく、交通量の多い地域である為車もまばらに走っている。
なんだと思って、ふとYさんが視線を右に移すと、Yさんの運転する車と並走する様にして、人程の大きさもある、黒い大きな翼を広げた存在がついてきている。
次の瞬間には、思わず視線を正面から外して、その不可解な存在を凝視した――
それは真っ黒いシルエットをした人だった。
黒い大きな翼を広げ、法定速度を守らずに七十キロ程の速度を出しているYさんの車にペッタリと寄り添うような猛烈な速度で、
――薄白い男の顔を頭に乗せた存在が、滑空するように翼を広げたまま、滑り降りるかのようにして車と並走しているのである。
Yさんは声にもならずに肩をこわばらせる。
幸いにも、その翼を広げたこうもり男は前だけを必死に眺めているようである。
……すると何か、側を走っている車のボディに反射してあらぬものが見えただけの様な気がした。
しかし視線を戻すと、そこには並走する車の一台もなく、やはりものすごい速度で薄白い顔の男が翼を広げて車道を飛んでいる。
Yさんは、隣に居る妻が怖い話が大嫌いであった事もあり、声を出して慌てそになる自分をグッと堪えて、緩やかに車の速度を落としていった。
すると、そのこうもり男は変わらぬ速度で飛んでいるのか、グングンとYさんの運転する車を追い抜いていった。
Yさんは唖然としながら、前方を飛来していくこうもり男を凝視していたが、その存在は今度は、右車線を走り抜けていくさらに速い車に並走する様にして速度を上げていって、それから突如と上空へと真っ直ぐに消えていったらしい。
「……あの……さ」
あまり不可解な物を目撃したYさんがそう、助手席に座る妻へと言い掛けると、妻は――
「フクロウだから……」
……と、同じ物見ていたのか、絶句する様な表情で口を固く引き絞っていたと言う。