開く仏壇
Yさんの実家には古い仏壇があるという。夜になったら観音開きの扉を閉めて、朝になったら扉を開くという習慣があったらしい。
しかしその仏壇、中々に年季が入って扉がバカになっているのか、Yさんが仏間に来ると閉じた扉が一人で開くという。
とはいえかなり年季の入った仏壇だったので、そういうものかと思って別段不思議には思っていなかった。畳を踏むそんな些細な振動で開閉してしまう位に、扉の蝶番は緩んでいたからだ。
仏間には、早くに亡くなった叔母の写真が飾られていたという。
ある日Yさんは母親に、あの古い仏壇をそろそろ買い替えたらどうだと提案してみた。
「締めた扉が勝手に開くだろう」
と言うと母親は首を捻って。
「そんな事は一度も無い」と答えた。
――いいやそんな筈はない。
幼い頃から側に見て来た仏間は、Yさんが仏間へと踏み込むと必ず開くのだ。
Yさんはその時にはじめて、仏壇の扉が勝手に開くという現象を不可思議な事であると思い始めたという。
しかし、そんな事は決して無いと母親は繰り返す。
それならばと、Yさんは母親を連れて仏間を訪れてみた。
すると閉じてあった仏間の扉が一人でに開いて、そこに飾られた叔母の写真と目があったらしい。
母親ははじめ、たいそう驚いた様子だったが、それからすぐに神妙な顔になって、
「そうか、アンタ姉さんに信じられないくらい溺愛されてたものね」
と言った。