小さいUFO
今から十五年ほど前にYさんが経験した話。
当時Yさんは二十九歳で、同い年の妻とアパートで二人暮らしをしていた。
ある日Yさんが仕事からアパートへと帰ると、妻が随分と慌てた様子で、
「家に小さいUFOが入って来て、飛び回ってから出て行った」
と話したという。
妻はオカルトや心霊の類の話は大の苦手であり、その手の話を一切しない人であった。
その妻がいま、随分と動揺した様子で、小さいUFOが入って来たのだという、よくわからない事をYさんに訴えたという。
当時はまだドローンという概念さえも無い時代である。
しかしYさんはそんな妻の様子こそ奇妙に思ったが、まともにその話に取り合う事もせずに聞き流したらしい。
それから一週間も経たない位に、テレビで怪奇特集が放送された。
Yさんはソファに座って妻と二人でその番組を観ていたらしい。
すると番組の中で、「自宅の中に小さなUFOが入って来た」という話が始まった。
Yさんは先週に妻が話していたのだと同じ話だと思って、食い入る様にテレビを凝視したという。
画面の向こうで、自宅の中を彷徨う微かな円盤を撮影した映像が流れていた。
そこに付属したエピソードとして、撮影者はこのUFOを撮影していた時の記憶が全く無いのだという事を言っていた。
「これさ、この前言ってたのと同じだな」
Yさんはソファに深くもたれ掛かるようにしながら、隣でテレビを視聴していた妻へとそう聞いてみた。
すると妻は――
「何の話?」
それからYさんがどれだけ妻に当時の事を思い出す様に言っても、妻が小さなUFOの話を思い出す事は無かった。
それから十五年の時が経過した現在でも、それは変わらないと言う。