五島列島のお墓参り
五島列島のお墓参り
五島列島の全域がそういう風習という訳ではないのですが、私の住んでいた地域では、お墓参りといえば提灯の蝋燭が消えるまでお墓で過ごし、花火や宴会、何でもありのお祭り騒ぎをするという風習がありました。お盆の期間なんかは、そうしたお墓参りと銘打ったどんちゃん騒ぎを三日間続けるんです。“チャンココ”と呼ばれる念仏踊りをしたり、他人のお墓に勝手に線香をあげたりと、楽しい行事になるのですが……
何というか、小学校高学年位になって来ると、そういう風習だとか、お墓参りだとか面倒くせぇよって……思い始める時期ってあるじゃ無いですか。
反抗期って言うんですかね? わからないんですがとにかく僕はその小学五年生のお盆の時期、何となくお墓参りに参加するのが嫌で。腰蓑や花笠を被って太鼓の音に合わせて踊るチャンココという念仏踊りもなんか奇妙で嫌で、とにかく家でゲームでもしてた方がいいよって思ってしまって、親族たちに誘われるのを執拗に断って、家に一人残って、和室でゴロゴロとゲームをして過ごしていたんです。
……しばらくは何も変わった事はありませんでした。
しかし夕刻位になって来ると突然、
「おじゃましまーす」
って調子で玄関のガラス戸を引いて誰かが入って来たんです。
お墓参りに参加しない僕を見兼ねてまた親戚が呼びに来たのかなと思ったんですが、聞いた事の無い男の人の声でした。
僕の住んでいたのはまぁ大層な田舎なんで、わりと誰でも家に出入りして来る感じだったので、全然僕も気にせずにゲームを続けてたんです。
すると次の瞬間に、僕の居る和室の締め切った襖がトントンとノックされたんです。
何だよ、と思いながらも応対しようとした所で食い気味に言われました――
「オジャマシマース、オジャマシマース、オジャマシマース、オジャマシマース、オジャマシマース」
壊れたラジオみたいに一定の音程で、棒読みするみたいに繰り返し始めて……それで僕が思わず「誰ですか!?」と、大きな声を出したその瞬間に、ピシャんと襖が開かれたんです。
――どう言う訳なのか、そこからの記憶が全く無いんです。
夜になって、和室で寝ていた所を母に揺り動かされて僕は目覚めたんです。
あれが全て夢だったのか、ピシャんと音を立てて開かれた先に何かを見て気絶したのか、それは今でもわからないんですが、プレイしていたゲームはそのままの画面で放置されていました。
心変わりした僕はお墓参りには必ず行くようにしました。
そうしないとまた、誰かが僕を迎えに来ると思ったので。
今でも毎年お墓参りには行きますよ。