やたらにトイレが壊れる家
やたらにトイレが壊れる家
今俺が両親と住んでいる一軒家の自宅は、元田んぼだった所に建っているらしい。
その右隣の隣。袋小路になった所に建ったAさんの家では、物がしょっちゅう倒れていたり、やたらにトイレが壊れるのだと言う話を聞いた。
件の家に住んでいるご近所さんは俺達よりも半年早くこの土地に来たらしいのだが、それから今日までのたった二年半の間で、トイレの水が止まったりする故障が四回もあったとの事だ。
ここいらの住宅街は纏めて建設されたのでまだ新築だ。うちの家ではトイレが壊れたりした事はない。
Aさんの家の配管の問題……だろうか?
だとしてもたった二年半の期間に四回もトイレが壊れるなんて言うのは異様だ。
Aさんも実際、この問題には頭を悩ませていたらしい。不動産会者に問い合わせると、始めのうちは配管工事の際の不備という事で無料で直せてもらったらしいが、それ以後はどうも駄目らしい。トイレの修理代というのは中々に値が張るものであるし、それに加えて家の中では確かに棚の上に置いておいた物やテーブルの上の物などが床に落ちていたりするので、不気味に思ったAさんはついに寺の坊主にお祓いを頼んだらしい。
それからしばらくすると、とある寺から坊主を二人引き連れて住職が出向いてきてくれたと言う。すると立派な袈裟を纏った住職は何やら懐から古地図を取り出して来て、
「井戸があったでしょ」と言う。
しかしAさんはそんな事は知らない。
すると住職はAさんの家の建つ土地にはその昔、井戸があったという事を話し始めた。
無論そんなものは遥か昔に埋め立てられているのだが、顔をしわくちゃにして微笑んだままの好々爺の如き住職が言う事には、その井戸は所謂心霊スポットになっていたと言う事らしかった。
そう昔の事ではない。時代的にこの住職はこの土地に井戸があった時代を知っているのだとお見受け出来た。
なんでも、ここにあった井戸では誰かが身投げをしているだとか、殺された人が投げ込まれたとか言う噂があったらしい。
無論そんな事実は無いのだろうが、いつの時代も心霊スポットというのは、尾鰭はひれを付けて面白おかしく語られる物であるらしかった。
Aさんもその様に住職に言って一笑に付したらしいが、住職はダブついた瞼を相変わらずの弓形にしたままこう告げたんだとか。
「それが案外馬鹿にも出来んのですよー」
なんでも、Aさんの家には霊道が重なっているらしい。その様な気の流れもあってか陰気な雰囲気が漂いこの土地の井戸は恐れられていた、という事らしかった。
そう言われるとAさんはゾッとしてしまった。となると家の物が倒れたり落ちているのは……と問うと、
「そうですよ、誰かが通り過ぎとるんです」
と言われて立ちくらみがしたという。
それからAさんは自宅をお祓いして貰ったらしい。今でも玄関先には盛り塩が盛ってあるし、お札も何枚か貼っているのだとか。そしてそれからはトイレの故障や家の物が落ちているといった現象がパタリと収まったらしい。
ここからは余談である。(本当に蛇足である)
その話を聞いた俺と母は、Aさんの家が本当に霊道なのかという事を確かめる為の実験を繰り返す事になった。
(なんとも小学生の発想らしいのと不謹慎なので、Aさんには内緒だ)
まず俺は風呂場の窓を開けて蝋燭の火を灯してみた。俺の家の前が霊道という事なら、気流はAさんの自宅に向かって流れると思ったからである。
そして俺の思惑通り、玄関正面に面した風呂場の窓枠に置いた蝋燭の煙は、浴室に充満する事もなく、まるで吸い寄せられる様に外に出て行って、Aさんの家の方へと進んでいった。
その事を母に伝えると、翌日母は玄関先でもっと大胆な実験を敢行した。
玄関先で蝋燭に火を灯し、そこに手製のペットボトルの上半分を輪切りにした物を被せ、気流の影響を受けないように工夫した。こうすれば、通常であれば上方へと煙が上ると思った訳である。
すると驚く事に、しばらく上へ上へとあがっていくだけだった煙が、ある地点から面白い様にAさんの自宅へと吸い込まれていったそうだ。
……今にして思えば微風が吹き抜けていっただけの様にも思えるが、親子揃ってそんな実験をした。そんな記憶。