奄美大島の神隠し
奄美大島の神隠し
Uくんのひいばあちゃんから聞いた話。
ひいばあちゃんの小さい頃、山中に絶対に近付いてはならないと言われていた場所があった。
とはいえ何もない島なので、ひいばあちゃん達は当時、あえてその入ってはならないと言われていた場所に四人で踏み入ってみたらしい。
鬱蒼とした山林を掻き分けていくと、程なくして山肌に沿うかの様に小さな祠が現れた。ろくに手入れもされていないような朽ちた木の屋根が付いていたらしい。
ふと振り返ると、一人足りない。
最後尾を歩いていた筈の男の子が一人、居なくなっている。
道は一本道だし、鬱蒼としていると言っても見晴らしが悪い訳でもない。
何より山に慣れた子だった。
であるのに、その子がいない。
ひいばあちゃん達は声をあげて周囲を探したらしい。道を戻りながら崖に落ちてないかなんかも確認したらしいのだが、遂にその子は見つからなかった。
男の子は行方不明になった。
島民総出で山狩もしたが成果は得られなかった。
……一週間が過ぎた。
周囲の者達はもう無理だろうと肩を落としていたという。
けれどひいばあちゃんには一緒に居た子が行方不明になったという自責の念があり、どうしても諦めきれずに、その日男の子の消えた山まで出向いたという。
すると、藪の中から行方不明になっていた男の子がひょっこりと姿を現した。ひいばあちゃんの顔を見て「おお」なんて呑気に手を上げている。
一週間も遭難していた少年が無事に戻って来たのだ。島は大騒ぎになった。
しかしひいばあちゃんは妙な事に気付いた。その子の身なりが妙に小綺麗なのである。
とても一週間ものあいだ野山を駆け巡っていたとは思えない。まるであの日いなくなった姿形のままポンと一週間後の今日に現れたかの様である。
ひいばあちゃんは男の子に、この一週間どうしていたのかを聞いた。すると男の子は妙な事を語り始めたのである。
「一週間? さっきみんな居なくなった所やないか」
男の子曰く。ひいばあちゃん達とはぐれたのはつい先ほどの事であるらしい。
列の最後尾を歩いていたら、突然誰も居なくなっていたんだとか。
仕方がないので道を戻って行くと、この騒ぎであったらしい。
訳がわからなかった。
まるで本当に、一週間だけ時間を飛んだかの様だった。
……その事と関係あるのかはわからないが、その男の子はそれから十年も生きずに死んでしまったらしい。