辛子に升
辛子に升
私の地元ではこんな馬鹿らしい都市伝説みたいなようなものがあります。
『辛子に升』こんな意味不明な事がとある山中の木々に描かれていて、それをみたものは死ぬ。
だとか、升いっぱいに辛子を詰めた物が置いてあったら、降臨術の最中なので、そこから直ぐに逃げなければ怨霊に呪い殺される。
――などなど、ネットに良くある都市伝説と比較してもどうにも馬鹿らしくなってしまうような噂が、子どもたちを中心にまことしやかに語り継がれていた。
子どもの頃は私たちも、度胸試しとか言って、山に入ってそんな文字の描かれた木を捜したりもした。
時にはイタズラで、赤い名前ペンでそんな文字を木に書いたりして、後日友人を誘って驚く顔を見て楽しんでいた。
しかして、皆そんな都市伝説は自然に忘れていって、中学生になる頃には誰もその話題を持ち出さなくなっていった。
かくいう私もそんな話は忘れていたが、高校生にもなってこの『辛子に升』という話を突然に思い出したのには大変な訳があった。
私たちの友人が去年一人行方不明になった。今もその所在はわかっていない。
その子はクラスでいじめを受けていた。私たちはそんな彼女を見て見ぬふりをしていた。次のターゲットが自分に移ることを怖れて。
私は中学の時にその子と何度か遊んだこともあったし、電話番号も知っていた。
ある日の晩、十時くらいにその子から電話がかかってきた。私はなんと無く気まずく思って、居留守を使って風呂に入った。
風呂から上がるり携帯を取り上げると、留守電が入っていた。なんだろう、巻き込まれたくないな……と思い思い、渋々メッセージを再生しました。
「ィ……ラ…………マス」
とても声が小さかったので、もう一度再生して、携帯を耳に押し当てました。すると抑揚のない声で
「イマ……カラシニマス」
直ぐに電話をかけ直したのですが、何度やっても繋がりませんでした。親にその事を相談すると、直ぐに警察へ通報し、地元の消防団が方々の山や川などに捜索行ったそうです。
ですが結局彼女は見つかりませんでした。
『辛子に升』
『カラシニマス』
子どもの頃の私たちは何か勘違いをしていたとその時に気付きました。
それにしても、何故彼女は最後に私に電話をかけてきたのでしょうか。




