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羅漢の小石


 京都府八幡市に住むOさんの祖母の話

 Oさんの祖母の幼い頃、母屋から離れにあるトイレに用を足そうとしていた所、空から降り始めた雨が屋根を伝ってひと筋になり、小石にあたってピチャンと音を立てたらしい。

 幼かった祖母はなにともなく雫の垂れた小石の方へ歩み寄ると、その石を拾い上げてたいそう驚いた。


「これ人の顔や」


 どこからどう見ても人の顔の形に削れたその小石を祖母は不思議に思い、なんとなく持ち帰って大事にする様になったと言う。

 とはいえ幼少期の気まぐれ。そんな小石の事など、押入れの奥に仕舞い込んで忘れてしまうものだと思っていた。

 ……だが、どういう訳だかその小石は、祖母が忘れ掛けた時になると決まって出てくる。

 ただし妙な所から出現するとかではなく、引っ越しの時や箪笥の買い替え、ありとあらゆる節目節目にコロンと仕舞っておいた場所から転がり出てくるのだとか。

 まるでその小石自体が意思を持って、忘れ去られまいと祖母の前に姿を現している様にも思えた。


 やがて祖母も成人近い年頃になった。

 つい先日、また忘れかけていた所に小石が転がり出てきた時に、いよいよとこの顔の小石との(えにし)を感じた祖母は、偶然にも姉が石を祀る家系に嫁入りしていたのを思い出した。

 この石の事が何か少し不気味にも思えてきたし、無下に扱うのも恐ろしいという事で、祖母は姉にこの石も一緒に祀ってくれと頼み込んだらしい。

 すると顔の小石については幼少期の頃から聞かされていた姉は、二つ返事でそれを了承してさっさと一緒にしてしまった。


 ……すると、どうにもあの小石を姉に祀ってもらってからというものの、怪我や事故などの不幸が立て続く。挙げ句の果てにはお盆の時期になると必ず割れる様な頭痛に毎年襲われる様になるなど、どうにも説明の付かない事象に数多く見舞われる様になってしまった。

 ……やはりどう考えてみても、あの顔の小石を姉に祀ってもらってからだという風にしか考えられない。

 そう考えた祖母は、地元の霊能者の先生の所へ行って、顔の小石を視てもらったという。


 すると先生は「あー入ってる」と言った。

 その先生は降霊術も出来るという事で、祖母がこの石の魂を降ろせるかと聞いた所、出来ると言うのでそうして貰う事にした。

 ――そして先生に憑依した小石に入っていたという魂は、こう語ったのだという。

 その語り方までは不明の為、以下内容を箇条書きにして纏める。


・石の中に入っている魂は「羅漢」であるらしく、まだ修行中の身であるらしい。

・自分はまだ未熟だから他の神様と一緒にしないで一つとして祀って欲しいと言っている。

・体を診てもらえ。


 内容としてはそういった事を語ったらしい。

 話の内容は……まぁわかった。石の中に宿った魂は「羅漢」と呼ばれる高僧で、他の石と一緒にせずに祀ってくれという話だった。


 ――だが()()()()()()()。とはどう言う事なのか。


 祖母の体は健康そのもので、見た目にも変わった所など一つも無かった。

 だが、そう言われたので一応医者にかかってみた。

 

 医者曰く、祖母の腹の中で、胎児が腐って死んでいたという。

 祖母は長らくその事に気付かずに、平然と暮らしていたと言う事がわかった。


 正直少し胡散臭い様にも思っていた霊能者の話も、この一件以来祖母も信じる事にしたという。

 そうして「羅漢の小石」の求めた通りに一つの御神体として神棚に祀ってみると、それからは不幸やお盆の時期の強烈な頭痛も嘘の様に無くなった。


 ……余談だが、小石の中に入っている「羅漢」の魂はいわゆる()()の様なもので、その本体は兵庫県加西市にある「羅漢寺」に五百羅漢僧の一つとして納められているという事であった。その話を聞いた祖母は家族と一緒に現地へと向かうのだが、風化して似た様な顔ばかりになった石像の群れの中から、祖吸い寄せられるみたいに一瞬で、「羅漢の小石」と同じ顔をした石像を見つけ出したらしい。





 ――この話はここで終わらない。


 時代は現代。

 結局Oさんの祖母は、あの「羅漢の小石」を神棚に納めてから、一度もその封を解かなかったらしい。

 小石は神棚に納められてから何十年間もの間封印されていた訳である。


 そして2023年、祖母が亡くなったと言う。

 祖母の語る「羅漢の小石」の話は親族全員が知っていたが、実際にそれを見た事があるのは、幼い頃の祖母を知る数限りない者に限られた。なので、これも何かの節目だから、一度封を開けてからお坊さんにでも見てもらって、必要なら祝詞(のりと)を上げてもらうなり清めて貰ってから、改めて神棚に戻そうと言う話しになった。


 ――筆者は、Oさん達が数十年ぶりに「羅漢の小石」の封を解く瞬間のその映像を、彼の好意により所有している。


 ここの性質上、そしてOさん家族による非常にプライベートな映像である為、その映像をネットの海に晒す事は出来ないが、それが非常に不可思議な動画となっている。

 なので可能な限りその動画の内容を、文章としてここに書き下ろす。



 まず、神棚の中から、赤い包みにくるまれた木箱が出てくる。

 スライド式になった木箱の中から、所々に筆で梵字が描かれた白い紙が出てくる。

 何重にも折り畳まれたその紙の中からやがて、小指の先ほどの小さな白い小石が出て来て手のひらに乗せられる。

「え? わからへん」

 と疑問を口にしながら見守る親族達。小石をアップにするカメラ。しかし確かに、小さな石に三つの窪みが出来てはいるが、ハッキリと顔だとは思えない。

 右へ、左へ、指先で転がしながら顔を探る。

 小さい頃にこの石を見せて貰ったという姉は、「本人は見てみ顔やろと言うが、私には今ひとつわからなかった」という旨の話を語る。

 やっぱりわからないな、と一分十六秒の動画が終わりを迎えようとしたその瞬間、一分八秒のコンマの瞬間に、こちらを向いたハッキリとした顔が石に見てとれ、また同時に水滴が一雫落ちたかの様なポチャンという音が入る。それからすぐに石が持ち上げられて同じ様な画角でこちらを向くのだが、その時には全然わからなくなっている。そして持ち上げられた石が横を向いた一分十三秒、またハッキリその顔の、今度は横顔を刹那に見せて動画は終了する。


 誰がどう見てもそうとしか思えない程に、()は克明に映ったり、消えたりしているのだ。

 もしくは姉の話から推察すると、この石は、人によって見え方が違うのかも知れない。

 アナタにはどう見えるだろうか?


 この石は今でもOさんの実家の神棚に祀られている。


 *その動画は実際に筆者のスマートフォンの中に保存されている。

 Oさんから誰かに見せる事自体には許可をいただいた。

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【実話怪談を収集しています。心霊、呪い、呪物、妖怪、宇宙人、神、伝承、因習、説明の付かない不思議な体験など、お心当たりある方は「X」のDMから「渦目のらりく」までお気軽にご連絡下さい】 *採用されたお話は物語としての体裁を整えてから投稿致します。怪談師としても活動しているので、YouTubeやイベントなどでもお話させて頂く事もあるかと思います。 どうにもならない呪物なども承ります。またその際は呪物に関するエピソードをお聞かせ下さい。 尚著作権等はこちらに帰属するものとして了承出来る方のみお問い合わせよろしくお願いします。
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