駐屯地に現れた火の玉
かつて自衛隊員をしていたAさんの話。
陸上自衛隊の駐屯地では、警衛隊というのが二十四時間休みなく周囲の監視をしているらしい。
駐屯地の周囲には高い塀やフェンスなどが設けられ、定期的な見回りに加えて赤外線センサーなんかもあるのだとか。
それは深夜の二時頃の事だった。
赤外線センサーに反応があったのでAさんが他の隊員達と飛び出していくと、フェンスを越えた先で大学生らしき若者がへべれけになって歩いていた。
Aさん達はすぐに大学生の身柄を抑え、何故侵入したのかと詰問した。
隊員達の形相に流石に酔いを覚ました様子の大学生は自分の身柄を名乗り、それからフェンスを乗り越えた理由を話し始めたという。
「なんか……あの、さっき火の玉が浮かんでて、それで……」
要領を得ない回答だった。それからなんだかんだとあって、結局大学生は厳重注意のみで帰される事になったらしい。
……翌日の明け方。
駐屯地内で一人の隊員が自殺しているのが見つかって、辺りが騒然としていた。
悲しいかな自衛隊ではそう言った事が少なからずあるらしく、その隊員もビニール袋を頭から被って自ら命を絶った事だった。
自殺した隊員の死亡推定時刻、深夜二時であったらしい。
関係があるのかは知らないが、それはあの大学生が火の玉を見たと言っていたのと丁度同じ時刻であった。