〇〇大学近くの事故物件アパート
Bさんという大学准教授の話。
名前は伏せるが、Bさんは関西で知らぬものが無いという程の名門大学の近くに、事故物件アパートがあるという話を聞きつけた。
不動産屋を通して話を聞いてみるとあっさりとその話を認めたらしく、なんと家賃は一万円ポッキリだという。
気の強かったBさんは、面白そうやんの一言でその日の内に入居を決めてしまった。
例のアパートは二階建ての木造建築で、かなり年季の入った様相であったが、それでも一万円は破格だという事で、Bさんは喜んでそのボロアパートで暮らし始めた。
Bさんは元来から心霊だとかそういった類のものを全く信じないタイプでもあったので、不動産屋から絶対に起きるから覚悟しておいてほしいと念を押されたいわゆる霊障を楽しみにしていた節さえあったという。
……だが、待てど暮らせどそんなものなど全く無く、面白くないと思ったBさんは、強い霊感があるというIさんという寺の息子の友人を自宅に招いた。
事故物件という事を黙って自室に誘い込んでから、Iさんに何か見えるか? と尋ねようと思っていたBさんだったが、Iさんはアパートのエントランスに立ち入った時点で既に気分が悪くなってしまったらしく、このアパートが事故物件である事をまだ伝えてもいないのに、ここが良くない場所であるという事に勘付いた様子だった。
Iさんが言うにこのアパートには良く無いものが「ウヨウヨおるやん」という事であったらしい。
どうやらIさんにはそう言ったものがハッキリと見えているらしい。
エントランスでこれなら、実際に事故物件である自分の部屋ではどれ程禍々しいものが潜んでいるだろう。
面白くなってきたBさんはIさんを無理矢理引っ張って自室に押し込んでいくと、居間に座らせた。
すると先程まで青ざめていたIさんの表情が柔らかくなっているのに気付いた。
「お前すげぇな」
そうIさんが感慨深げに言うのでなんなのかと聞いてみると、
「お前の通る道だけ霊が開けていく。それでこのアパートにはそこら中に、おそらくは全部の部屋に数え切れない程の魂が澱んでいるけれど、お前の部屋にだけ何にもおらん」
なんでやねん、とBさんは突っ込んだという。
それからBさんは事もなげにアパートでの生活を送っていたが、余りの老朽化から取り壊しが決まったと言う事で、その来年には強制退去になったらしい。
非常に残念だとBさんは語っていた。