131/160
換気扇
二十歳の頃の体験談なんですけど聞いてもらってもいいですか?
そう言って私の元を訪れたのは三十代のAさんという女性だった。
ある日Aさんは風呂に入ってシャワーをしていた。
目を瞑って頭を洗っていると、サワサワ……と首筋にむず痒い感覚を覚えたので、自分の髪が纏わりついてるのかな、と思って何度か手で払ったという。
さして気にする事無くそのまま頭を洗っていたそうだが、それからも首筋に感じる感覚が何度か続くので、これはおかしいな思ったAさんは、今度は虫かと思い付いて飛び上がり、流しっぱなしにしたシャワーで顔に被ったシャンプーの泡だけを流して薄目を開けたという。
振り返ると、年季の入って薄茶色くなった頭上の換気扇の隙間から、だらりと長い黒髪が何束か垂れていたという。
目を見張っていると、その髪は換気扇の中に戻っていった。
Aさんの自宅は二階建ての一軒家で、母親を含めて家族にもあれ程の長髪の者はいないという。
くわえてシャワールームは一階部分にあって、そのすぐ頭上はAさんの自室で、人が入り込める様なスペースなんかは無かったそうである。