七日を待たずに亡くなった
田舎に住んでいた俺達にとってのカーライフの始まりというのは、形容するならば何年も土にこもって生きて来た蝉の幼虫がようやく羽を得て空へと飛び立つかの様な感覚に近いものがあった。
とはいえ当時の俺達はまだ高校生で、在学中に車を運転する事は校則で禁じられていた。
肌寒い秋の夜の事だった。友人のYから連絡があった。
――ドライブに行こう。今日は親が居ないから、車で迎えにいく。
Yのその一声でいつもの三人は容易に集結した。運転手はYで助手席に俺、後部座席にKが乗り込んで来て早くも鼻息を荒くしている。
車はなんの事は無いコンパクトカーで、お世辞にも俺達が憧れている様な格好の良いものでは無かったけれど、友人達との初めてのドライブに俺達は興奮した。
不思議なんだが車を運転するという事には妙に、とても悪い事をしているという感覚があった。まるで犯罪を犯しているかの様な心持ちというか、まだ大人達から子供の枠に収まっていろと固く禁じられているのに、先立って大人の世界に一歩踏み込んでしまったかの様な、そんな感覚。そんな事実が俺達を余計に煽り立てている様にも感じられた。
夜の闇の中を当て所もなく疾走していた。窓を開けてそこから顔を出して前髪を捲り上げながら、奇声のようなものを上げて俺達のテンションは最高潮に達していた。
車内は変なテンションになって、俺達はもう何を言っても爆笑して飛び跳ねる様に喜んでいた。Yはその時からしきりに笑っていた。
「あー人人、人!」
そう言ってナニカに気付いたYが急ハンドルを切って車は電柱に突っ込んだ。Yは人だと言っていたが助手席から前を見ていた俺にはそんなものは何も見えなかった。
静まり返った車内で俺が目を瞬いていると、運転席からハッキリとした声があった。
気が動転したらしいYがまだ先程までのテンションで笑っている。
見ると、運転席側の車体を電信柱が突き抜けて、未だハンドルを握り込んだままのYの左半身を押し潰していた。
「アハ、アハ……」
Yはまだ笑っていた。けれどその表情からみるみると色が失われていって、すぐにガクンと糸が切れたみたいに俯いて、もう二度とは話さなくなった。
それから十二年。夜中にふと聞こえる事があるYの笑い声は俺だけじゃなく、その時後部座席に乗っていたKまでもが耳にするのだと先日の同窓会で聞いた。
Yは自分が死んだ事に気付いているのだろうか?
あの日ドライブになんて行かなければ……。