年越しそばが食べられない
もうすぐに2022年が終わるという年の暮れ。
大して自分好みのテレビ番組もやっていないので、スーパーで出来合いの惣菜を大量に買い込んで、とにかく酒をカッ食らっていた。
まだ二十二時だというのに強烈な眠気に襲われる。
惰性で眺めていたお笑い番組の漫才が、途切れに途切れにしか思い出せない。
電気ストーブに足を近付けた横になった姿勢で目を覚ます。
「ああ眠っていた、しまったしまった」
温かいお茶を飲んで目を細める。温かい部屋で時計を見上げる。年越しまでまだあるな……
……気付いたらまた眠っていた。
電気ストーブに足を近付けた横になった姿勢で目を覚ます。
「また眠っていた。ああしまった、飲み過ぎたかな」
まだ湯呑みからは湯気が上っている。あまり時間は経っていないらしい。時計を見上げる。やはり数十分しか経っていない。
ああ眠い。それにしてもなんて眠いんだ今日は……
眠気覚ましにSNSに他愛もない事を投稿する。その間も点けっぱなしなったテレビから笑い声が絶えず聞こえて来る。
「ああ、眠い、今日に限って眠い……と、投稿」
いつもの通り、俺のSNSには大した反応も見られない。
ああそうだ、と俺は思い至る。
散々っぱら食い散らかした揚げ物ばかりの惣菜で胃がもたれたいるが、年越しそばは食わねばと。別段普段は信心深くもない癖に、こういう縁起物にはあやかろうとするのが不可思議だ。
温かい部屋、笑い声のするワンルーム。
ウトウトしながらレトルトのそばに湯を注ぐ。
「いただきまー」
パキンと箸を割って温かいそばに突き立てる。その拍子に立ち上った湯気がメガネを曇らせた。
……あんまり美味くない。というより、全く腹が減っていない、気持ちが悪い。
とはいえ食べ物を残すのは俺のポリシーに反するので、半目のまま口いっぱいに溜め込んだそばをポグポグと咀嚼する。
ゆっくり、ゆっくりと……
ああ箸が進まない。
それにしても腹も減っていない。
温かい部屋、笑い声の反響するワンルーム……
何処か夢見心地の浮ついた心情のまま、惰性でそばをむさぼる。
「おえ…………」
ボンヤリとしたままふと、手元のそばの中に視線を落とした。
「ふあ??」
薄茶色の汁の中を漂う麺。その水面、幾本もの麺を越えた先に、こちらを覗く眼球があった。
「んん???」
目を凝らした俺は、カップの中から揺れずにこちらを見ている一つの眼球が、パチリと瞬きをした拍子にカップそばを空にぶちまけた。
夢だったのか、なんだったのか……悲惨な有様となったテーブルの前であぐらを書き直して、俺は唸る。
……まだ、年は越えていない。