変な収納
「いや別に、なにって無いよ……どっかで聞いたような話ししか」
そう言って、当時職場の同僚であったTは話し始めた。
それはTが小学一年生の頃の話しだったという。
Tの家は米屋で、まぁまぁ栄えた駅前に一軒家を持っていた。
今ではその部屋を父親が一人で使っているそうだけど、当時一家はその正方形の部屋で川の字になって眠っていたそうな。
Tが言うには、その部屋には“変な収納”があるとの事である。
真っ白い壁の大人の腰くらいの高さの所が観音開きになって、そこに結構広い収納スペースがあったとの事だ。
その珍妙なスペースは、まだ7才かそこらの少年の好奇心を刺激するには十分過ぎた。
当時Tは、家にいとこが遊びに来るとしょっちゅうその収納を開けては、ここに宝物があるかも知れないだとかうそぶいて、一緒になって物が乱雑に詰め込まれた引き出しをひっくり返した。
……するとある日、日本人形が姿を現したのである。
Tもいとこもホラー映画に出てくる位に年季の入った薄茶けた人形に驚いて、その場に放り出して母親の所に駆けていった。
「ねぇ!! ねえって、人形! 怖い人形が出て来た!」
「はぁ〜? またアンタたちねぇ……汚したら元の通りに片付けてよね」
「本当なんだよおばさん! 本当、本当! 日本人形だよ! あの引き出しから出てきたんだ!」
すると母親は顎に手をやり頭を傾げた。はてそんな物あったかな、と困り果てている。
証拠を見せようとTは、母の手を引いて変な収納の部屋に戻った。
人形はもう、どれだけ探しても二度とは見付けられなかった。